■トピックス  2018年

2018-07-05 日文研の話題

[日文研フォーラム・リポート]嘉納治五郎という人を知っていますか(2018年6月12日)

 6月12日、ハートピア京都にて、潘世聖・外国人研究員(中国・華東師範大学教授)を講師に迎え、日文研フォーラムが開催されました。「嘉納治五郎と近代中国――時代を超えた知性と智慧」と題する講演には、中国人留学生を含む119名が参加しました。

 講道館柔道の創始者として有名な嘉納治五郎は、近代日本における中国人留学生教育の草分けでもあった――。潘研究員は、15年余の長きにわたる調査・研究の成果をもとに、嘉納と中国との関わりや留学生教育カリキュラムの実態、その教育理念と言論に至るまでをつぶさに紹介し、嘉納治五郎という人物の知られざる足跡を明らかにしました。

 1896年、中国政府の要請により留学生受け入れを開始した嘉納は、弘文学院(のちに宏文学院と改称)を開設しました。その卒業生からは文豪・魯迅や共産党の初代総書記を務めた陳独秀ら、後に中国のリーダーとなる人材を多数輩出しています。特に、「自分の理想をあまり美化しないこと」という嘉納の近代的知識に基づく教えは、魯迅の文学を貫く思想にも影響を与えたといいます。発表では、学院に入学当時の若かりし魯迅の写真や、中国の古書店で発見したという『宏文学院講義録』(1906年刊)等の極めて貴重な史料も紹介されました。

 嘉納の漢学の素養に裏付けられた高い見識と倫理観、国際人としての視野の広さは、数々の名言の中でも殊に「自他共栄」という言葉によく表れていると感じました。日中関係についても、「互いにその文化思想を交換」することの大切さを説き、「国と国との関係も、また人と人との関係のごとし」と残した嘉納に対し、潘研究員が「大変共感する」と強調していたのが印象的でした。

 発表後は、コメンテーターの伊東貴之・日文研教授をはじめ、客席で聴講していた劉建輝教授からも、「(嘉納が)あの時代にそこまでの開明的・普遍的思想を持って発言していた人物とは知らなかった」「感銘を受けた」などの感想が相次ぎました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)