■トピックス  2018年

2018-07-05 日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]「怪異」を学問とする矜持と探究心(2018年6月21日)

 6月21日、木場貴俊プロジェクト研究員を講師に「近世学問における怪異」と題して、木曜セミナーが開催されました。

 日本近世文化史を専門とする木場研究員は、「怪異」を一つのキーワードに近世の学問と思想を読み解く研究を続けています。今回はそのユニークな研究手法の展開事例として「ウブメ」と「河童」を取り上げ、それぞれを江戸時代の学者がどのように捉え、語っていたかを、豊富な図像と文献を基に紹介してくれました。

 中世期から伝承されてきた「ウブメ(産女)」は、出産が原因で死亡した女性(母子)の妖怪です。『今昔物語集』などに、赤子を抱いた女が夜に現われ、通行人に赤子を抱くように強要する説話が登場しています。江戸時代初期になると、ウブメは中国伝承の怪鳥である姑獲鳥(こかくちょう)と同一視されるようになったそうです。そして、その説を初めて唱えたのが、実は儒学者の林羅山だったというのは、意外な結びつきでした。日本では古くから親しまれている「河童」についても、昌平坂学問所の儒者であった古賀侗庵が、江戸時代にすでに各地の伝説をまとめた資料集を編纂していたとか。怪異譚が脈々と伝わる背景には、広く知識を集め普及しようという学者たちの志があったことにあらためて感じ入りました。

 発表後はコメンテーターの安井眞奈美教授が、民俗学・文化人類学の視点から、「ウブメ」に関する解説を補足しました。死んだ妊婦をそのまま埋葬すると「ウブメ」になるという言い伝えから、母親のお腹から胎児を取り出し、身二つにして埋葬する習わしが全国各地で見られたといいます。「出産の怪異を生み出す想像力」はどこにでも存在するとし、今後のさらなる研究の広がりに向けて、世界各地の「ウブメ」イメージや葬送儀礼等について比較研究する必要性を提起しました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)