■トピックス  2018年

2018-05-23 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]古くて新しい雅楽の魅力を再発見(2018年5月10日)

 5月10日、アンドレア・ジョライ外来研究員(日本学術振興会研究員)を講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。

 論題は、“The Interrelation of Academic and Artistic Approaches to the Reconstruction of Japanese Court Music: From Historiographies to Historiophonies”(雅楽における学術的「復元」と芸術的「復元」との相互関係:文字の歴史学から音の歴史学へ)。

 自らも雅楽グループ「南都楽所」のメンバーとして活動するジョライ研究員によると、明治政府によって復興された雅楽という音楽ジャンルは、過去50年にわたって、めざましい展開を見せてきたといいます。武満徹や黛敏郎ら著名な作曲家による新作が革新の主流派として台頭した一方、近年では平安末期の雅楽の琵琶譜『三五要録』のような古文書から「復元」された作品群が、演奏会や学術研究等の場で注目を集めるようになっています。この現象は何を意味するのだろうか。「復元」された音楽ははたして、音というはかない存在の内にある実体をつかみ得ているのだろうか、という深遠な問いが今回のテーマでした。

 発表では、ジョン・ケージの実験音楽『龍安寺』や、1985年に発足した雅楽グループ「伶楽舎」による演奏など、雅楽から復元もしくは再創造されたいくつもの楽曲を実際に聴きながら、方法論の違いや、伝統と革新との微妙なせめぎあいなど、雅楽をめぐる今日的課題について解説がなされました。楽器のなかでは特に楽琵琶に焦点を当て、『三五要録』所収の秘曲「石上流泉」を例に、オリジナルに近い演奏から、古代の記譜を現代へよみがえらせる新たな旋律まで、現代の演奏家による様々なバージョンの聴き比べも楽しい試みでした。雅楽のもつ荘厳さとはまた別に、静かで深い弦の音色を堪能することができました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)