■トピックス  2018年

2018-05-02 日文研の話題

[木曜セミナー・リポート]「明治維新」をグローバルに問い直す(2018年4月19日)

 4月19日、「世界史の中の明治維新」をテーマに、講師3名による木曜セミナーが開催されました。当日は関東方面からの参加もあり、会場が満席となる盛況ぶりでした。
 はじめに、ジョン・ブリーン教授の「明治天皇の「勲章外交」―天皇と欧州・アジアの君主たち」と題する発表は、維新後の新政府が制定した栄典制度における「勲章」を糸口に、明治天皇が欧州・アジア各国の君主と繰り広げたダイナミックな戦略外交の一面を明らかにしました。「勲章ブーム」だった19世紀に、最高位として崇められた英国のガーター勲章を明治天皇が授与されるまでの日英間の攻防が、殊に印象的でした。
 二番手のロバート・ヘリヤー外来研究員は、「世界史における明治維新―内戦の “Postwar” のアメリカと日本を比較する」と題して発表。南北戦争後にレコンストラクション(再建)に取り組んだアメリカ連邦政府がアフリカ系アメリカ人の恒久的な平等の機会を喪失し、いまだに旧体制の名残が継続する結果を招いたのに対し、日本で明治維新がおおむね成功したのはなぜか。一つの要因として、明治政府に敵対していた旧幕臣のエリートを新政府に登用したこと、そしてもう一つのグローバルな要因に、静岡の茶農家として活路を見いだした徳川幕臣により、日本茶が新興産業へと発展した点を指摘しました。
 そして「東アジアの近代知がいかに構築されたか―近代日中二百年史から明治維新をとらえ直す」という論題でトリを務めた劉建輝教授は、明治維新の諸改革を陰で支えた中国の情報ルートの重要性について、膨大な資料をもとに発表しました。東アジアと西洋の貿易拠点だった「広州十三行」の全容から、英国の宣教師らが設立した上海の出版社、長崎の唐人屋敷まで、日本の近代知識の伝達や普及に果たしたそれぞれの役割が説得力をもって響きました。
 明治維新は日本一国で完成したのではなく、アジア史、さらには世界史上で広くとらえられるべき出来事であるという劉教授の結論を受け、最後にコメンテーターの瀧井一博教授が、「明治維新が「主権国家」を東アジアの伝統の中に持ち込み、それを肥大化させ、東アジアの秩序を乱したという面も無視できない。その点をどう評価するかというのは一つの課題として残るのではないか」と補足提起し、今後の議論へと視野を広げました。
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
ブリーン教授による発表
ヘリヤー研究員による発表
劉教授による発表
瀧井教授によるコメント
会場の様子