■トピックス  2018年

2018-04-19 日文研の話題

[日文研フォーラム・リポート]禅の「境致」から広がる風景論議 (2018年4月10日)

 4月10日、ハートピア京都にて、蔡敦達・外国人研究員(上海杉達学院教授)を講師に迎え、日文研フォーラムが開催されました。「重々たる法界 目前に彰らかなり―禅院の塔頭における「境致」の選定」と題する講演には、約200名が参加。新年度を迎え、呉座勇一助教が初司会を務めた今回は、「呉座(ござ)でございます」の挨拶に思わず客席から笑いがこぼれる和やかなスタートとなりました。
 中国・南宋(1127~1279)の五山では、禅院内外の建造物や自然物を禅宗的な観点で選定し、「境致」と呼んでいました。とくに、十の重要なものを選ぶ「十境」が一般的でした。これがやがて日本に伝わり、中世の京都五山や鎌倉五山でも境致選定が行われるようになったといいます。
 蔡研究員は、中国では禅院本寺のみで行われていた境致選定が、日本五山では子院である塔頭にも広がっていた実態を紹介し、貴重な古絵図や、五山文学といわれる詩文などを丁寧に解説しながら、禅宗における日本的特色の有り様を明らかにしました。
 講演後は、コメンテーターの井上章一教授が、「ヨーロッパのモスクや教会等の修行を目的とする場で、景色が美しいところを選んで建てられたものはなかったのではないか。中国や日本といった東アジアの国々に、風景や庭の美しさを重んじる禅宗が生まれたことを見直したい」と口火を切り、従来は哲学や思想面から語られることの多かった禅宗が、新たに「風景論」の研究へと広がる可能性をめぐって、しばし活発な議論が続きました。

(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
 
講演する蔡敦達外国人研究員
会場の様子
呉座勇一助教による司会