■トピックス  2018年

2018-03-20 日文研の話題

[日文研フォーラム・リポート]ハルブ外国人研究員、福澤諭吉を熱く語る(2018年3月13日)

 3月13日、ハートピア京都にて、ハサン・カマル・ハルブ外国人研究員(エジプト国立カイロ大学准教授)を講師に迎え、日文研フォーラムが開催されました。「明治の人々を科学に導いた福澤諭吉の絵入り教科書―『訓蒙窮理図解』をひもとく」と題する講演に、184名が参加しました。
 福澤諭吉が明治元年(1868)に刊行した『訓蒙窮理図解(きんもうきゅうりずかい)』は、子どもを含む一般庶民を対象に科学知識を平易に伝えることを目的とした図解入りの教科書です。それを原典である西洋の科学書と詳しく照合したのは、かつて日本の大学院に留学していた当時のハルブ研究員が初めてだったとか。今回はそれら原典に加え、日本の同時代の科学書とも対比しながら、明治維新後の社会でいちはやく西洋の科学知識の啓蒙をめざした福澤の先進性と独自性について持論を展開しました。また、コーランの教えと共に行われたという、近代エジプトにおける科学啓蒙史の一端も紹介されました。
 原典の図と比べると、福澤本の図はいちいち日本風に描き換えられているのがユニーク。着物姿の女性や子ども、富士山、温泉と、身近な例が次々と登場し、熱の膨張により火が爆ぜている場面では「猿蟹合戦」でおなじみの猿が逃げ回っています。個人的には、絵師が誰なのか、とても気になりました。
 講演後は、コメンテーターの瀧井一博教授と石上阿希特任助教も登壇。特に石上特任助教が、儒学者中村惕斎が著わした、子ども向けの絵入り事典『訓蒙図彙』を例に、国内外の書物の知識を導入したという点で、江戸時代の絵入り本から福澤本の発想へとつながる可能性を指摘したのに対し、ハルブ研究員は「福澤は西洋の書物からただ絵を写したのではなく、科学的「思考法」を伝えることが主目的だった」と、江戸時代の書物との直接的な連関を否定し、白熱した討論が繰り広げられました。

(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)
 
ハサン・カマル・ハルブ外国人研究員による講演
フォーラムの様子