■トピックス  2018年

2018-03-19 日文研の話題

[Evening Seminarリポート]近年の映画にみる「戦争の記憶」の語りかた (2018年3月7日)

 3月7日、ディック・ステゲウェルンス外国人研究員(ノルウェー国立オスロ大学准教授)を講師に迎え、英語によるイブニングセミナーが開催されました。
 「The Continuing Competition for Japan’s Collective War Memory: An Analysis of Eien no Zero and Other Recent Japanese War Films」(戦争の記憶の共有化をめぐる終わりなき競争―『永遠の0』ほか近年の日本の戦争映画を分析する)という論題の下、近年ヒット作が続いている日本の戦争映画の中から主に、歴代の邦画実写映画で6位にランクインする興行成績を記録した『永遠の0(ゼロ)』(山崎貴監督、2013年)を取り上げた発表内容でした。
 戦後の日本の映画界は、「反戦」と「戦争賛美」に二分される作品を次々に生み出し、「戦争の記憶共有化のための終わりなき競争」を繰り広げてきた。その流れは今も変わらないが、90年代末から今世紀にかけては明らかな変化が見られる、と発表者は指摘します。神風特攻隊を扱った映画、いわゆる “Kamikaze Film” ジャンルに限っても、それまでの戦時シーンのみを描く定型のプロットから転じ、現代の視点から遠い過去の出来事としての戦争を振り返るように、構成が複雑化する傾向にあると。
 その典型例である『永遠の0』が「空前の成功」を収めた理由については、戦争を壮大な愛の物語として描いた点、CGを駆使した芸術的戦闘シーン、理想とされる男性像の提示などを挙げ、「直接的な表現を避け、反戦を思わせる要素を入れながらも、全体として愛国的主張を漂わせているところが、21世紀型戦争映画の一つのつくりかたである」と結論づけました。映画は製作者のメッセージを伝える媒体であり、「誰にどの台詞を語らせるかが重要なポイント」という言葉が耳に残りました。
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)