■研究活動 共同研究 2015年度

おたく文化と戦時下・戦後

領域 第2研究域 構造研究

 本研究はいわゆる「おたく文化」と一般に俗称されるまんが・アニメーション・特撮映画などを中心とするサブカルチャー領域を主たる対象とし、その方法や美学、形式性、教育システムなどの成立を戦時下と言う歴史的文脈の中で読みとろうとするものである。研究名において「オタク」でなく「おたく」と敢えて記すのは、「おたく」の語そのものが1980年代初頭、大塚が編集長をつとめた雑誌の中で誕生し、幼女連続殺人事件の被告がそう形容されることで一般化しながら、しかし、やがて脱歴史化され、穏当化され、「オタク」と表記されるようになった歴史をふまえてのものだ。
 これまで、おたく文化のメンタリティーはポストモダニズム的文化論のなかで脱歴史的・脱政治的に語られ、極東の島国の特殊なポストモダン的状況が産み落とした特異な事象と受け止められがちであった。しかし、例えば、宮崎駿は飛行機・ミリタリーファンであるとともに反戦・平和主義者であることはよくしられる。その「矛盾」を宮崎駿に鈴木敏夫プロデューサーが問いかけるかのように新作「風立ちぬ」は作られた。奇しくも顕在化したその矛盾は、改めて「おたく文化」にとって「戦争」とは何か、更にいえば「おたく文化」は何故、戦闘機の美学が象徴するような戦争の美学、ファシズムの美学に脆いのか、という疑問にも行き着く。
 そもそも近代まんがの出発点の一つである田河水泡の『のらくろ』シリーズ開始が1931年、すなわち15年戦争の開始と同時であるのは考えるべき問題だ。ディズニーの受容も同時期である。まんがのキャラクターや方法論のいくつかは確実に戦時下で作られ、そして同時にまんが・アニメは国策とも確実に接合・拮抗して行くことになることだけは容易に推察できる。しかし、戦後社会やポストモダンや「伝統」の産物だと見なされがちなまんが・アニメなどの方法や美学が、いかに戦時下戦後の中で作られていったのかという歴史の詳細の確認は未だ十全ではない。
 これら戦時下に生成した方法と美学を「おたく文化」の出自として位置づけなおすことで日本のサブカルチャー研究に歴史性・政治性を復興したい。
(以下の研究組織は2015年10月1日現在のものです)

研究代表者 大塚 英志 国際日本文化研究センター・教授
幹事 北浦 寛之 国際日本文化研究センター・助教
共同研究員 浅野 龍哉 まんが家/北京外国語大学日本語学部・日本人教師
板倉 史明 神戸大学大学院国際文化学研究科・准教授
内田 力 東京福祉大学・非常勤講師
香川 雅信 兵庫県立歴史博物館・主査 / 学芸員
菊地 暁 京都大学人文科学研究所・助教
キム・ジュニアン 新潟大学人文学部メディア・表現文化論主専攻プログラム・准教授
木村 智哉 日本学術振興会特別研究員(PD)(国立歴史民俗博物館)
嵯峨 景子 明治学院大学・非常勤講師
冨田 美香 東京国立近代美術館フィルムセンター・主任研究員
鶴見 太郎 早稲田大学大学院文学研究科・教授
中川 譲 日本映画大学・准教授
藤岡 洋 東京大学東洋文化研究所・助教
細馬 宏通 滋賀県立大学人間文化学部・教授
牧野 守 映画史研究家
室井 康成 民俗学者
山本 忠宏 神戸芸術工科大学芸術工学部まんが表現学科・助教
佐野 明子 桃山学院大学国際教養学部・講師
滝浪 佑紀 城西国際大学メディア学部・准教授
山路 亮輔 webコミック作家
谷口 恵太 web映像作家
近藤 和都 東京大学大学院学際情報学府・博士後期課程
鈴木 麻記 東京大学大学院学際情報学府・博士後期課程
海外共同研究員 Marc Steinberg Concordia University・准教授
秦 剛 北京外国語大学北京日本学研究センター・副教授
堀 ひかり コロンビア大学東アジア言語文化学部・Assistant Professor
Kim Kyu-Hyun カリフォルニア州立大学デーヴィス校歴史学部・准教授