■研究活動 共同研究 2014年度

昭和40年代日本のポピュラー音楽の社会・文化史的分析――ザ・タイガースの研究 

領域 第3研究域 文化比較

本共同研究会は、1960 年代後半から1970 年代初頭に活動したポピュラー音楽グループ、ザ・タイガース(沢田研二、岸部修三、森本太郎、加橋かつみ、瞳みのる、岸部シロー)の活動の歴史を研究することを通して、1960 年代後半の日本の大衆社会の動態を解明しようとするものである。ザ・タイガースは1960 年代後半のポピュラー音楽ブーム、「グループサウンズ(GS)」を牽引したグループであり、その人気の背景を探ることを通して、当時の大衆がベンチャーズやビートルズの影響を受けたエレキ・サウンドになぜ魅了されたのか、またテレビの普及に代表されるような大衆消費社会という経済的伸長や、1968 年の学生運動から1970 年の安保闘争へと展開していく政治運動との関係において、戦後社会にどのような意味を有するものであったのかを考えてみたい。
 このようなポピュラー音楽を研究対象に選ぶことで、学問の対象が単なる抽象的な概念だけでなく、そこにジル・ドゥルーズのいうような情動の問題を研究の俎上に載せることができるであろう。しかもザ・タイガースは大手の芸能プロダクションである渡辺プロによってマネイジメントされたことで、日本国内ではほかに例を見ない大成功を得るとともに、ミュージシャンとしての音楽活動とタレントとしての芸能活動の間でそのメンバーたちは葛藤し、その人間関係のなかに亀裂が入っていくことになる。そして、最終的にはメンバーの脱退、ついには解散に至ることになる。そこには、音楽の問題を単に音楽の質の問題 には還元することのできない、資本主義の論理のなかでどのようにポピュラリティーを獲得するかという、まさに社会・文化的な研究対象にふさわしい主題が存在していたのである。また渡辺プロは、占領期の進駐軍を顧客としたジャズ音楽のマネイジメントからその仕事をはじめ、占領軍が東京から撤退した後には、新たに国内の日本人の若者をその聴衆とするようになった。その意味で、渡辺プロによるザ・タイガースのマネイジメント戦略は1960 年代にとどまらず、戦後史の変遷のなかでの日本の大衆文化の軌跡を跡づける存在であった。それを情動(大衆とミュージシャン)、および資本主義の論理と音楽の問題(ミュージシャン同士およびプロダクションとの関係)の視点から論じていくことは、新たな戦後日本の民衆史研究の突破口を開くものとなろう。
(以下の研究組織は2014年10月1日現在のものです)

研究代表者 磯前順一 国際日本文化研究センター・准教授
幹事 井上章一 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 浅尾雅俊 音楽家
飯田健一郎 同志社大学大学院神学研究科・博士後期課程
小野善太郎 えとせとらレコード・店主
黒﨑浩行 國學院大學神道文化学部・准教授
永岡 崇 南山大学南山宗教文化研究所・研究員
中村俊夫 有限会社トシ・コミュニケーションズ・プロデューサー
藤本憲正 同志社大学大学院神学研究科・博士後期課程
松本 清 音楽評論家
水内勇太 同志社大学大学院文学研究科・博士後期課程
倉本一宏 国際日本文化研究センター・教授
細川周平 国際日本文化研究センター・教授
北浦寛之 国際日本文化研究センター・助教
光平有希 総合研究大学院大学文化科学研究科・博士後期課程