■研究活動 共同研究 2014年度

おたく文化と戦時下・戦後

領域 第2研究域 構造研究

 本研究はいわゆる「おたく文化」と一般に俗称されるまんが・アニメーション・特撮映画などを中心とするサブカルチャー領域を主たる対象とし、その方法や美学、形式性、教育システムなどの成立を戦時下と言う歴史的文脈の中で読みとろうとするものである。研究名において「オタク」でなく「おたく」と敢えて記すのは、「おたく」の語そのものが1980 年代初頭、大塚が編集長をつとめた雑誌の中で誕生し、幼女連続殺人事件の被告がそう形容されることで一般化しながら、しかし、やがて脱歴史化され、穏当化され、「オタク」と表記されるようになった歴史をふまえてのものだ。
 これまで、おたく文化のメンタリティーはポストモダニズム的文化論のなかで脱歴史的・脱政治的に語られ、極東の島国の特殊なポストモダン的状況が産み落とした特異な事象と受け止められがちであった。しかし、例えば、宮崎駿は飛行機・ミリタリーファンであるとともに反戦・平和主義者であることはよくしられる。その「矛盾」を宮崎駿に鈴木敏夫プロデューサーが問いかけるかのように新作「風立ちぬ」は作られた。奇しくも顕在化したその矛盾は、改めて「おたく文化」にとって「戦争」とは何か、更にいえば「おたく文化」は何故、戦闘機の美学が象徴するような戦争の美学、ファシズムの美学に脆いのか、という疑問にも行き着く。
 そもそも近代まんがの出発点の一つである田河水泡の『のらくろ』シリーズ開始が1931 年、すなわち15 年戦争の開始と同時であるのは考えるべき問題だ。ディズニーの受容も同時期である。まんがのキャラクターや方法論のいくつかは確実に戦時下で作られ、そして同時にまんが・アニメは国策とも確実に接合・拮抗して行くことになることだけは容易に推察できる。しかし、戦後社会やポストモダンや「伝統」の産物だと見なされがちなまんが・アニメなどの方法や美学が、いかに戦時下戦後の中で作られていったのかという歴史の詳細の確認は未だ十全ではない。
 これら戦時下に生成した方法と美学を「おたく文化」の出自として位置づけなおすことで日本のサブカルチャー研究に歴史性・政治性を復興したい。
(以下の研究組織は2014年10月1日現在のものです)

研究代表者 大塚英志 国際日本文化研究センター・教授
幹事 北浦寛之 国際日本文化研究センター・助教
共同研究員 浅野龍哉 神戸芸術工科大学先端芸術学部・実習助手
板倉史明 神戸大学大学院国際文化学研究科・准教授
内田 力 東京大学大学院総合文化研究科・博士後期課程
大野修一 株式会社徳間書店アニメ・コミック編集局・編集者
香川雅信 兵庫県立歴史博物館・主査 / 学芸員
菊地 暁 京都大学人文科学研究所・助教
キム・ジュニアン 新潟大学人文学部・准教授
木村智哉 日本学術振興会特別研究員(PD)(国立歴史民俗博物館)
嵯峨景子 東京大学大学院学際情報学府・博士後期課程
須藤遙子 横浜市立大学・客員准教授
鶴見太郎 早稲田大学大学院文学研究科 ・教授
冨田美香 立命館大学映像学部映像学科・教授
中川 譲 日本映画大学・准教授
藤岡 洋 東京大学東洋文化研究所・助教
細馬宏通 滋賀県立大学人間文化学部・教授
牧野 守 映画史研究家
室井康成 民俗学者
山本忠宏 神戸芸術工科大学先端芸術学部・助教
海外共同研究員 秦 剛 北京外国語大学北京日本学研究センター・副教授
マーク・スタインバーグ コンコルディア大学・准教授