■研究活動 共同研究 2014年度

日本大衆文化とナショナリズム

領域 第5研究域 文化情報

 戦後、日本でナショナリズムと言えば、国粋主義を連想する傾向が強い。しかしナショナリズムは政治や経済の手段として利用されることはあっても、本質的には文化的側面を内包する言葉である。また、ナショナリズムの用語は、国家と民族の形成過程と結びつけて定義されてきた。そのため、ナショナル・アイデンティティの理解がエスニック・アイデンティティを理解する前提とされた。そして日本の神話や国学を抜きにナショナル・アイデンティティの理解は出来なくなっている感がある。
 この研究においては、既存の人類学的分析の枠組みの歴史主義や人種主義など近代的な概念を参考にすることはあるが、理論的な言説に縛られることなく、実際に大衆が楽しむ文化を分析対象にする。大衆文化の素材、内容、そしてそれらの波及効果など人文学的なコンテンツを社会学や社会心理学的に分析することが目的である。日本の大衆文化のなかに表れているナショナリズムを分析することで、可視化する日本のアイデンティティが国家という枠を超え、日本大衆文化を受容する各々の地域に広まっている状況において、国民国家としての感情あるいは欲望がどのような形態として表れているのかを様々なコンテンツの解剖によって明らかにしたい。
 1990 年以後、顕著になっている日本のナショナリズムの行方を究明し得るものとして大衆文化が有用であると認識している。その理由は、日本社会および大衆の価値観と生活相の変化を最も直接的に反映する分野が大衆文化であると思うからである。このような側面を考慮して、この研究は、近代から現代までの日本の大衆文化を多様な視角から分析を行う。大衆文化は時系列的な分析が可能であるという点で、実際に多くの社会的変化と大衆的価値観の変化が連動していることを知ることが出来るだろう。日本大衆文化が単なるコンテンツとして扱われるのではなく、表象学、文化史、メディア史、歴史学、政治学、思想史、さらに美学、社会学、人類学に跨る学際的な研究が必要であることを、この研究は提示したい。
(以下の研究組織は2014年10月1日現在のものです)

研究代表者 朴 順愛 国際日本文化研究センター・外国人研究員 / 湖南大学校・教授
幹事 山田奨治 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 市川孝一 明治大学文学部・教授
須藤遙子 横浜市立大学・客員准教授
全 美星 神戸大学大学院人文学研究科・講師
竹内幸絵 同志社大学社会学部・教授
土屋礼子 早稲田大学政治経済学術院・教授
寺沢正晴 神奈川大学人間科学部・教授
油井清光 神戸大学大学院人文学研究科・教授
尹 健次 神奈川大学外国語学部・教授
吉田則昭 立教大学社会学部・兼任講師
谷川建司 国際日本文化研究センター・客員教授 / 早稲田大学政治経済学術院・客員教授
朴 美貞 国際日本文化研究センター・プロジェクト研究員