■研究活動 共同研究 2014年度

植民地帝国日本における知と権力

領域 第4研究域 文化関係

 近年、日本植民地史研究においては、思想史・文化史・都市史などの各分野で、植民地権力が直接的な暴力以外の回路を通じて現地社会への浸透をはかろうとした側面が注目され、それに対する被支配民族の対応についての議論も精緻化されつつある。
 本共同研究は、日本の台湾・朝鮮・「満洲国」などに対する支配において、学問的知識・政策構想・イデオロギー・スローガンなど多様な形をとって現れた「知」に着目しつつ、それが帝国の支配に果たした役割や、植民地支配のなかでの被支配者の「知」のあり方を考察しようという試みである。検討対象は以下のように大きく三つに分けて設定する。
 知識人の学術活動と政策:植民地大学をはじめとする教育・研究機関は植民地における学知のヘゲモニーを形成する上で大きな役割を果たしたことが近年注目されつつある。そのような研究者・教育者の学術活動を植民地支配との接点/乖離という点に焦点を合わせながら検討する。
 政策担当者の思想:植民地統治を担当した官僚やブレーンは、植民地現地の要請にしたがって固有の政策思想を形成し、時に植民地支配政策の潮流を形作る役割を果たした。彼らの思想形成過程・植民地支配政策への影響の度合いなどを検討する。
 被支配民族における知:支配者側の知のヘゲモニーに対し、それに対抗して(あるいはそれを利用して)、現地民族の形成しようとした知を明らかにする。「親日派」や転向者の論理を含む朝鮮人・台湾人らの知識人の知の営みがここでの研究対象となる。
 三つの区分は厳密なものではなくしばしば重なり合う。しかしそれは逆に言えば、三つの対象を別個の対象として研究を進めても植民地における知の体系を捉えることはできないということでもある。本共同研究があえて広い枠組みを設定して知を統合的に捉えようとするのはこのような理由による。
 このような研究対象を設定する上であらかじめ念頭に置いておきたいのは、まず、本共同研究が、帝国の中心から周縁部に知が放射され伝播していくというような、一部の既存研究に見られるようなモデルを想定しているのではないという点である。むしろ、帝国の中心部で形成された知のヘゲモニーが、植民地現地固有の状況によって、あるいは被支配民族からの読み替えによって変容していくダイナミズムを描き出すことをめざしたい。
 また、これらさまざまな局面での知を具体的に議論するために、できる限り個人の次元から議論を展開したいと考えている。人物研究・個人史研究の集積がただちに帝国日本における知と権力の全体像を明らかにしうるとは限らない。しかし一方で、この点は、帝国全体の中で個人がもった影響力/限界や個人の中で帝国が内面化されていた様相―いわば「帝国の中の個人」あるいは「個人の中の帝国」―という新たな問題を考える糸口としうるのではないかとの期待も持っている。
(以下の研究組織は2014年10月1日現在のものです)

研究代表者 松田利彦 国際日本文化研究センター・教授
幹事 瀧井一博 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 飯島 渉 青山学院大学文学部・教授
小野容照 京都大学人文科学研究所・助教
岡崎まゆみ 帯広畜産大学人間科学研究部門・講師
加藤聖文 国文学研究資料館研究部・助教
加藤道也 大阪産業大学経済学部・教授
川瀬貴也 京都府立大学文学部・准教授
河原林直人 名古屋学院大学経済学部・准教授
栗原 純 東京女子大学現代教養学部・教授
洪 宗郁 同志社大学グローバル地域文化学部・准教授
愼 蒼健 東京理科大学工学部第一部・教授
通堂あゆみ 武蔵高等学校中学校・教諭
長沢一恵 奈良大学・非常勤講師
春山明哲 早稲田大学OAS台湾研究所・客員上級研究員
松田吉郎 兵庫教育大学大学院学校教育研究科・教授
宮崎聖子 福岡女子大学国際文理学部・准教授
やまだあつし 名古屋市立大学大学院人間文化研究科・教授
李 昇燁 佛教大学歴史学部・准教授
稲賀繁美 国際日本文化研究センター・教授
劉 建輝 国際日本文化研究センター・教授
中生勝美 国際日本文化研究センター・客員教授 / 桜美林大学人文学系・教授
海外共同研究員 陳 姃湲 台湾中央研究院台湾史研究所・研究員
山本浄邦 韓国学中央研究院・フェロー
李 炯植 高麗大学亜細亜問題研究所(韓国)・HK助教授
所長裁量経費による招聘研究員 宋 炳巻 高麗大学校亜細亜問題研究所・HK研究教授
鄭 駿永 ソウル大学奎章閣韓国学研究院・教授
顔 杏如 臺灣大學歷史學系・專任助理教授
呉 叡人 中央研究院台湾史研究所・副研究員
何 義麟 国立臺北教育大学台湾文化研究所・副教授