■研究活動 共同研究 2014年度

昭和戦後期における日本映画史の再構築

領域 第1研究域 動態研究

 フィルム・スタディーズ(映画学)は欧米では歴史も実績もある研究分野の一つとして長年に亘る研究の蓄積がなされてきたが、日本においては作家論・作品論と映像のテクスト分析の手法に、また研究の担い手も美学・哲学・文学といった人文科学系の研究者に偏っている。
 だが、映画とはそもそも「芸術」である以前に「興行」、即ちお金を儲ける手段の「娯楽」として発達してきたものである。また、その誕生・発展の歴史とほぼ重なる20 世紀においては、「娯楽」という糖衣に包まれた「情報伝達ツール」として国家による利用・統制に常に曝されてきた側面が重要であろう。つまり、映画作家が自分の作品にどのような意味を込めたのかよりも、それを観客がどう受け取ったかの方がある意味で重要であり、また個々の映画がどういう切り口で観客に提示されたのか(それは常に最大の利益を生み出す方向性に誘導されていると見なすべきだろう)という情報の検討も重要なはずである。だが、こうした側面での検討が十分に行なわれてきたとは言い難い。―映像のテクスト分析の手法に偏った映画学に止まらない、真の映画学を構築していくためには、社会科学的な映画研究の強化こそが必要と考える所以である。
 本共同研究では、こうした日本映画研究動向の中で手薄感のある社会科学的なアプローチ、特に映画の産業としての側面、あるいはその背後にある制度や政策など、国家と映画産業界との関係性、オーディエンス研究などの側面を中心としたアプローチを集積することで、真の映画学を構築していく上での第一歩を刻むことを目的としている。昭和戦後期の40 年余りの時期を対象とするが、それは嘗て南博らが試みていた同時代史としての戦後映画の研究を、数十年の時を経て再吟味してみることでもある。興行成績のデータ、映画業界の動静、宣伝のテクニック、観客のニーズと映画会社側の方針との関係など、これまであまり分析対象となって来なかった部分に光を当てることで日本映画史を再定義していく試みは、日本の映画学発展に寄与する意義があるはずである。
(以下の研究組織は2014年10月1日現在のものです)

研究代表者 谷川建司 国際日本文化研究センター・客員教授 / 早稲田大学政治経済学術院・客員教授
幹事 細川周平 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 晏 妮 一橋大学大学院社会学研究科・客員教授
板倉史明 神戸大学大学院国際文化学研究科・准教授
井上雅雄 立教大学・名誉教授
小川順子 中部大学人文学部・准教授
木下千花 首都大学東京大学院人文科学研究科・准教授
河野真理江 立教大学現代心理学部・博士後期課程
木村智哉 日本学術振興会特別研究員(PD)(国立歴史民俗博物館)
須藤遙子 横浜市立大学・客員准教授
冨田美香 立命館大学映像学部・教授
中村秀之 立教大学現代心理学部・教授
西村大志 広島大学大学院教育学研究科・准教授
柳下毅一郎 多摩美術大学造形表現学部・非常勤講師
北浦寛之 国際日本文化研究センター・助教
長門洋平   国際日本文化研究センター・機関研究員
海外共同研究員 ミツヨ・ワダ・マルシアーノ カールトン大学(カナダ)芸術文化学部・教授