■研究活動 共同研究 2013年度

マンガ・アニメで日本研究

領域 第五研究域 文化情報

 海外での日本研究は、1980年代には大きな高まりをみせていた。しかし「失われた20年」を経て日本の経済力が低下すると同時に、日本への関心も潮が引くように低下していった。西欧圏の大学では日本研究の教員ポストが削減され、日本以外の国の専門家に置き換えられていく傾向がみられる。一方で、日本の大衆文化に興味を持つ学生はどの国でも依然として多く、とりわけマンガ・アニメ文化は海外の若者を日本に惹き付ける「最後の砦」になっている。
 日本のマンガ・アニメ研究は、徐々にではあるが確実に発展を遂げている。しかしながら、その人気と比して研究者の人口は多いとはいえず、研究も充分に進んでいるとは言い難い。日本の研究者は外国語文献を読まず、外国の研究者は日本語文献を参照しないというギャップも生じている。海外ではマンガ・アニメを導入として日本研究へと学生をいざなう試みもなされているが、作品知識において教員を凌ぐ学生を指導する方法論と、ガイド付きの教材が不足しているといわざるをえない。
 この研究会では、海外でのマンガ・アニメを媒介にした日本への関心の高さと現状の日本研究とのギャップを埋めるために、個々の作品を検討し研究・教育的な観点を与えていく。したがって、従来のマンガ・アニメ研究によく見られるような、個々の作品論・作家論・表現論には重きを置かない。作品が海外で流通したときの翻訳の質を問うことは重要であるが、訳文の欠点を指摘するよりも、各国の事情に合わせてどのような翻案がなされたかを重視したい。一方で、マンガ・アニメが持つ魅力と経済効果を国家の発展のために利用しようとする動きがはじまっているが、そうした流れとは距離を保ちつつ、さまざまなアクターによる活動を分析対象としたい。そして作品に描かれた世界と日本の文化・社会とを接続し、「聖地巡礼」に代表されるような作品と現実世界との交流、作品の「ユーザー」によるn次創作の広がり、作品に示された世界が日本や海外の文脈で、あるいはモダニズム以後の世界の大きな流れのなかでどのような意味を持つのか、などを問いたい。
 検討する作品は最近のものに加えて、古い作品でもあまり論じられることのなかったものを取り上げる。日本文化の研究者や教員が参照できるケース・スタディを増やすことによって、マンガ・アニメを媒介にした海外での日本研究、さらには東アジア研究の発展に資したい。
(以下の研究組織は2013年5月9日現在のものです)

研究代表者 山田奨治 国際日本文化研究センター・教授
幹事 荒木 浩 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 飯倉義之 國學院大学文学部・助教
石田佐恵子 大阪市立大学大学院文学研究科・教授
伊藤慎吾 中央学院大学・非常勤講師
伊藤 遊 京都精華大学国際マンガ研究センター・研究員
岩井茂樹 大阪大学日本語日本文化教育センター・准教授
岡本 健 京都文教大学総合社会学部・講師
金水 敏 大阪大学大学院文学研究科・教授
白石さや 東京大学大学院教育学研究科・教授
山中千恵 仁愛大学人間学部・准教授
山本冴里 山口大学大学教育機構・講師
油井清光 神戸大学大学院人文学研究科・教授
横濱雄二 甲南女子大学文学部・講師
吉村和真 京都精華大学マンガ学部・教授
北浦寛之 国際日本文化研究センター・助教
谷川建司 国際日本文化研究センター/早稲田大学政治経済学術院・客員教授/客員教授