■研究活動 共同研究 2013年度

21世紀10年代日本文化の軌道修正:過去の検証と将来への提言

領域 第四研究域 文化関係

 日本文化のみならず日本文明は、すでにここ20年にわたり、おおきな軌道修正を迫られてきた。ところが、専門分野に過度に集中した学術領域は、こうした課題に対応できていない。東北大震災以降の状況によって露呈したこの現実を前にして、抜本的な軌道修正を構想するための研究会を、3年間で企画し、今後の共同利用研としての共同研究の可能性を含めて、議論を進め、提言をまとめたい。
1.まず、現在の研究体制にたいする問い直しを提唱したい。そこには3つの課題があろう。
 1-1.いままでの学術、日本文化研究のありかたが問われねばならない。はたして20世紀日本が後世にのこすべき《文化遺産》とは何か?を、産業技術博物館構想が挫折した時点で、問い直したい。
 1-2.つづいて、日本文化の対外的発信の問い直しも火急な課題だろう。戦時下における《対外文化工作》への反省から、今後の国際文化交流の将来への展望を模索する機会を設けたい。
 1-3.さらに、学術を支える文化環境の再設定が、必要だろう。産・官・学協同による学術研究の相互乗り入れについて、日本の社会構造はいちじるしく硬直しており、韓国や中国をふくむ諸外国と比較しても、さまざまな制度的制約が、抜本的な刷新を阻害している。将来像を模索したい。
2.つぎに、日本の学術の世界の内部でも、いままでの知の継承が危機に瀕している。
 学者社会はどこにゆこうとしているのか。既存の学会組織は、後継者養成やポストの刷新に円滑を欠き、留学生への対応にも不適応を呈して、自己再生能力を喪失しつつある。学会再編成への構想も必要とされているのではないか。世界との連携、共同事業の推進にむけた青写真作りが必要となるだろう。
3.この問題は、さらには日本文化の将来像の再構築に結びつく。
 3-1大量生産・大量消費モデルの限界は、この20年ほど顕著になってきたが、軌道修正はなされていない。まずリサイクルの思想と実践を問い直し、将来へのビジネス・モデルの提起を含めた、社会再構築にむけて、いま学術に何が要請されているのか、問い直したい。
 3-2それとの関連で、《もの》に触れる思考の復権を提唱したい。これは頭脳中心主義の異常肥大からの脱却にむけて、あらたな学術姿勢、研究の再定義をも含む提言をめざすこととなる。
4.これらをうけて、具体的に日本文化の軌道修正を考える場合に、いくつかの話題を設定したい。
 4-1「《ガラパゴス》はどこへゆく:日本型孤立文化の進化に将来はあるか?」
 4-2「《島嶼性文化》の特質と課題:日本列島文化史の将来構想にむけて」
 4-3「海洋史観の再検討:海賊行為と公権力」
 といった設定は、島国としての日本の世界における文化的・文明史的位置の問い直しを促進する。

参加者からの具体的提案に即し、毎回独立性のある話題をとりあげ、集中審議を行う予定である。
(以下の研究組織は2013年5月20日現在のものです)

研究代表者 稲賀繁美 国際日本文化研究センター・教授
幹事 牛村 圭 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 鵜戸 聡 鹿児島大学法文学部・准教授
大西宏志 京都造形芸術大学・教授
小倉紀蔵 京都大学大学院人間・環境学研究科・教授
鞍田 崇 総合地球環境学研究所研究推進戦略センター・特任准教授
クリストフ・マルケ 日仏会館フランス事務所・研究所長
呉 孟晋 京都国立博物館・研究員
小崎哲哉 京都造形芸術大学・客員教授 / (有)小崎哲哉事務所・編集者・美術ジャ-ナリスト
近藤高弘  美術作家
澤田敬司 早稲田大学法学学術院・教授
全 美星 神戸大学大学院人文学研究科・講師
戦 暁梅 東京工業大学外国語研究教育センター・准教授
千葉 慶 明治大学・非常勤講師
テレングト・アイトル 北海学園大学人文学部・教授
西田雅嗣 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科・准教授
西原大輔 広島大学大学院教育学研究科・教授
波嵯栄 ジェニファ しょう子 日仏会館フランス事務所フランス外務省・国立科学研究センター在外共同研究所UMIFRE19・研究員
橋本順光 大阪大学大学院文学研究科・准教授
林 洋子 京都造形芸術大学造形学部・准教授
範 麗雅 読売日本テレビ文化センター講座本部・非常勤中国語講師
平松秀樹 大阪大学外国語学部・非常勤講師
平芳幸浩 京都工芸繊維大学美術工芸資料館・准教授
藤原貞朗 茨城大学人文学部・教授
Brosseau, Sylvie 早稲田大学政治経済学術院・教授
三原芳秋 同志社大学言語文化教育研究センター・准教授
本浜秀彦 文教大学国際学部・教授
山中由里子 国立民族学博物館民族文化研究部・准教授
山本麻友美 公益財団法人京都市芸術文化協会京都芸術センター・プログラム・ディレクター
與那覇潤 愛知県立大学日本文化学部・准教授
Larking, Matthew 同志社大学言語文化教育研究センター・助教
李 建志 関西学院大学社会学部・教授
渡邊淳司 NTTコミュニケーション科学基礎研究所・リサーチスペシャリスト
山田奨治 国際日本文化研究センター・教授
劉 建輝 国際日本文化研究センター・教授
磯前順一 国際日本文化研究センター・准教授
榎本 渉 国際日本文化研究センター・准教授
フレデリック・クレインス 国際日本文化研究センター・准教授
森 洋久 国際日本文化研究センター・准教授
長門洋平 国際日本文化研究センター・機関研究員
朴 美貞 国際日本文化研究センター・機関研究員
滝澤修身 国際日本文化研究センター/長崎純心大学人文学部・客員教授/教授
張 競 国際日本文化研究センター/明治大学国際日本学部・客員教授/教授
中村和恵 国際日本文化研究センター/明治大学法学部・客員教授/教授
海外共同研究員 大橋良介  ケルン大学 (ドイツ)・客員教授
Dennitza GABRAKOVA City University of Hong Kong (香港)・准教授