■研究活動 共同研究 2012年度

現代民俗研究方法論の学際的研究

領域 第二研究域 構造研究

本研究は、現代民俗に関する研究方法論に関して、民俗学のみならず、文化人類学や社会学や文化研究、メディア論などの学際的な立場から、「民俗」概念の再検討を行い、その再構成を試みることで、現代社会の必要性に対応した新たな研究方法の確立を目指すことを目的とする。 現代民俗研究の新たな方法論を確立するにあたって、本研究が採用するアプローチは、その「学際性」である。現在、急激なグローバル化の進展によって、現代社会は大きな転換を迎えている。それに応じて、たとえば、歴史学や民俗学が扱ってきた対象を社会学者が研究したり、文化人類学者が地理学や社会学的なテーマに取り組んだりするなど、従来的な学問的区分がゆらぎ相互乗り入れが確実に進んでいる。つまり、「民俗」もまた、いまや民俗学だけの研究対象ではありえないのである。とりわけ「現代民俗」の研究にあっては、前近代の生活様式を主に扱ってきた民俗学よりも、現代を扱ってきた社会学をはじめとする隣接分野に参考にすべき多くの蓄積があり、学際的な立場からのアプローチは不可欠である。本研究では、民俗学のみならず、文化人類学や社会学や文化研究、メディア論など複数の立場の研究者が参加し、それぞれの問題関心と方法をぶつけ合うことで、学際的な立場から、現代民俗研究の新たな方法論の確立を目指す。 具体的には、「民俗」概念の再検討を通じた、その解体と再生の作業を試みることにある。本研究が、「民俗」概念に着目する学術的背景の一つには、90年代以降の近代国民国家批判論がある。「一国民俗学」という言葉に端的に表れているように、民俗学がナショナリズムの形成に果たした役割が批判に晒されることになった。これにともない、民俗学のまなざしを規定してきた「近代」そのものを反省的に捉えようとする研究が大量に産出されることになった。しかし、これらは「民俗」概念それ自体の再検討に及ばなかったために、かえって「民俗」の時制を前近代あるいは近代に固定する結果を招くことになった。一方、ユネスコの世界遺産事業が進むなか、文化財保護制度の中に位置づけられていた「民俗文化財」に関する、学問的関心と社会的重要性が高まってきた。民俗学は、文化遺産化という現代的現象を扱うことによって、現代科学の一歩を歩み始めたが、しかし、それは皮肉にも、民俗学の対象を文化財に限定する動きを導き、民俗学の「文化財学化」を急速に進めることになった。その理由もやはり、近代に生み出された「民俗」概念に無批判的に依存していることに求めることができる。 本研究では、「民俗」概念の解体と再生の作業が、現代民俗研究の方法論の確立には、不可欠という立場から、以下の研究内容を設定している。 異人、他者、移民、移動、流動性などの概念に注目することによって、固定的かつ静態的な「民俗」概念を再構成する。そのために、 ① 理論社会学によるストレンジャーや他者に関する理論研究 ② 環境社会学・観光社会学・地域社会学による「よそ者」に関する実証的研究 ③ 文化人類学・民俗学による民俗社会における異人観の研究 ④ メディア論による他者表象の研究 以上の研究成果を総合することによって、現代社会文化研究における「民俗」概念の可能性を追求する。そして、新たな「民俗」概念を用いた現代社会文化研究の射程を検討し、具体的な事例研究に向けての方向性を見出す。以上の作業を通じて、現代社会が抱える困難な課題に対しても、新たな視点からの独自の貢献の可能性について検討し、その実践的・応用科学的な可能性についても検討する。

研究代表者 山 泰幸 国際日本文化研究センター・客員教授
幹事 小松 和彦 国際日本文化研究センター・所長
共同研究員 石田 佐恵子 大阪市立大学大学院文学研究科・教授
岩本 通弥 東京大学大学院総合文化研究科・教授
浮葉 正親 名古屋大学留学生センター・准教授
門田 岳久 立教大学観光学部・助教
阪本 俊生 南山大学経済学部・教授
菅 康弘 甲南大学文学部・教授
橘 弘文 大阪観光大学観光学部・教授
舩戸 修一 静岡文化芸術大学文化政策学部・講師
法橋 量 慶應義塾大学文学部・非常勤講師
山中 千恵 仁愛大学人間学部・准教授
梁 仁實 岩手大学人文社会科学部・准教授
飯倉 義之 国際日本文化研究センター・技術補佐員