■研究活動 共同研究 2011年度

新大陸の日系移民の歴史と文化

領域 第五研究域 文化情報

本共同研究会は、南北アメリカ大陸に渡った日本移民とその子孫の歴史と文化に関し、多分野にわたる研究者の討論の場を提供することを主な目的とする。特に英語圏とスペイン語・ポルトガル語圏の間で分断されていたテーマを共有し、別の文化的・歴史的文脈で考え直すきっかけを与えることを長期的な目的としている。場合によっては、他地域への日本移民、新大陸の他の移民、日本への還流移民の研究者も加え、より巨視的で広範囲を押さえる成果を期待したい。 新大陸(ハワイを含む)への日本移民は明治とともに開始し、近代史の一側面として重要な役割を果たしてきた。彼らは日本と受入国の経済状況に左右されつつ、外交的な課題、政治的な包摂や排除の対象としての歴史を歩んできた。日本史や文化研究の一部であると同時に、受入国の歴史や文化のなかで少数民族としての位置を確かめる必要があることは、移民研究の端緒から指摘されている。しかし北米の日本移民禁止法(1924年)が南米諸国への移民の増加を招いた例からわかるように、あるいは北米から南米、南米の国から国への再移住者の存在が示すように、国別の移民研究には限界がある。どの国へ渡った集団にも帰国者が存在するが、その行方、日本の歴史や文化への影響はつかみがたい。これらについて、他国の例、他の民族移動の例を引きつつ、日本移民の特徴を捉えていく必要がある。昨今は人・モノ・情報の流動性が高く、既存の地理的な参照点について柔軟に考察することはいうまでもない。移民研究の幅が広がると同時に、その輪郭があいまいになっていく。それは学問の進むべき道であろう。 移民研究のさまざまな対象のなかで、本研究班は歴史と文化に集中する。歴史に関しては19世紀後半から現在までを含む。文化は幅広く習慣、生活様式、思想、文物の生産、社会組織、イベント、メディア、言語、行動、芸能、芸術などを含む。主に移民集団を通した日本文化の海外での適応や変容も含む。つまり文化の生産者、媒介者、受容者としての移民集団を歴史的な流れ、受入国の歴史と文化、また日本の近代史と文化の中で、総合的に理解することを模索する。移民(移動民)の研究は政策提言や社会運動と結びついて活性化されてきた経緯があるが、本研究班はそれよりも生活、表現、感情を視野に入れた方向を打ち出したい。 出発点でまず〈日本文化〉という前提を問い直す必要がある。これは文化ナショナリズムやメディアの研究で盛んに議論されているが、移民集団のありかたから間口を広げていくことも可能だろう。何がいつどの道筋で移動し、誰によってどのように文脈の変化に対応し変容したか、「文化変容」「適応」、「折衷」や「混淆」という既存の社会学・人類学の概念がどこまで有効か、各局面で具体的に考えていく必要がある。経験論的な調査と理論的な考察をバランスよく取り込んだ姿勢が何よりも望まれる。

研究代表者 細川 周平 国際日本文化研究センター・教授
幹事 瀧井 一博 国際日本文化研究センター・准教授
共同研究員 赤木 妙子 目白大学 社会学部地域社会学科・准教授
アンジェロ・イシ 武蔵大学社会学部・教授
粂井 輝子 白百合女子大学文学部英語英文学科・教授
小嶋 茂 早稲田大学移民・エスニック文化研究所・客員研究員
栗山 新也 日本学術振興会特別研究員(PD)
佐々木 剛二 日本学術振興会特別研究員(PD)
滝田 祥子 横浜市立大学国際総合科学部・准教授
日比 嘉高 名古屋大学大学院文学研究科・准教授
松岡 秀明 淑徳大学国際コミュニケーション学部・教授
物部 ひろみ 同志社大学言語文化教育研究センター・准教授
森本 豊富 早稲田大学人間科学学術院・教授
守屋 友江 阪南大学国際コミュニケーション学部・教授
柳田 利夫 慶応義塾大学文学部・教授
渡会 環 愛知県立大学外国語学部・専任講師
海外共同研究員 根川 幸男 ブラジリア大学・准教授