■研究活動 共同研究 2011年度

文学の中の宗教と民間伝承の融合:宮沢賢治の世界観の再検討

領域 第四研究域 文化関係

近年、宮沢賢治の作品は日本国内だけではなく海外でも、数多くの研究者によって研究されるようになった。その主な理由は、おそらく、賢治の作品に見られる普遍性であるに違いない。かつては、賢治作品を、単に、法華経の教えに狂ってしまった一人間の仏教至上主義的な戯言に過ぎないと、評価することが一般的で、そのために賢治の作品は長い間、軽蔑され無視されてきた。 しかし、2000年の夏、花巻市で行われた国際シンポジウムで、八カ国以上の外国から来た参加者がみな、異口同音で賢治作品の普遍性を高く評価し、彼の作品の評価を見直すべきと強調したのである。つまり、宮沢賢治の作品は、単なる童話ではなく、世界中の人々が何の違和感も持たないで、読んで味わえる世界的に通じる価値観を持っている。換言すれば、彼の作品には「国境」がない。この点においては、欧米に見習って創作活動に踏み入った日本の一流のどの近代作家よりも、賢治のほうが優っているのではないかと思う。 生前には無視されていたにもかかわらず、死後になって、国内だけではなく海外でも大きく賞賛されるようになった賢治作品の特徴は、どこに潜んでいるのだろうか。おそらく、宗教(仏教)の教えと日本本来の民間伝承(Folklore) がうまく融合して出来上がった賢治独特の世界観、人生観が彼の作品を貫いているがために、読者に魅力を及ぼしているのではないか。 宮沢賢治の法華経信仰は、彼を仏教至上主義の作家として非難するきっかけとなった。しかし、彼は決して仏教至上主義者でもなければ、排他的な行動をする人間でもなかった。逆に彼は、人間がみんな平等で、努めれば誰でもこの世に極楽を作ることができると信じ、人類の幸福を祈っていた一人間であった。それゆえに、彼は法華経の奥義に感化されて熱心な仏教信者となったのである。宗教を熱心に信じるということは決して悪いこととは思わない。しかしそのため、その人が書いた文学作品を見下し、信仰者の書いたものは評価に値するべきものではないと考えることには、納得できない。 賢治作品は、長い間このような状況に置かれていた。これを改めるためにも、賢治作品の再検討は、今日どうしても必要であると思われる。

研究代表者 Pullattu Abraham GEORGE 国際日本文化研究センター・外国人研究員
幹事 小松 和彦 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 青木 美保 福山大学人間文化学部人間文化学科・教授
牛崎 敏哉 宮沢賢治記念館・副館長
鎌田 東二 京都大学こころの未来研究センター・教授
黒澤 勉 元岩手医科大学大学院共通教育センター教授
杉浦 静 大妻女子大学文学部・教授
鈴木 健司 文教大学大学院言語文化研究科・教授
中地 文 宮城教育大学・教授
萩原 昌好 埼玉大学名誉教授
望月 善次 盛岡大学・学長
森 三紗 元岩手大学宮沢賢治センター副代表
山根 知子 ノートルダム清心女子大学文学部・教授
荒木 浩 国際日本文化研究センター・教授
鈴木 貞美 国際日本文化研究センター・教授
稲賀 繁美 国際日本文化研究センター・教授