■研究活動 共同研究 2009年度

性欲の社会史

領域 第二研究域 構造研究

我々は、「性欲の文化史」という研究会を、3年間続けてきた。今度は、「性欲の社会史」へ、挑むことにする。扱うのは、どちらも性欲である。その点では、変わりがない。ただ、性欲という対象に挑む、その構えは変えている。文化史であるよりは、社会史的に挑んでいきたいという志に、新しさはある。  たとえば、つれあいの選び方を問題にしたい。生物学は、様々な動物の異性に対する好みをしばしば明らかにしようとする。しかし、人間の場合、ことはそう単純でもない。どういう異性を好むかは、時代により民族により、異なっている。いわゆる美人観、美男観には、文化的なずれがある。文化史に携わる研究者は、それらがいかに違っているのかを調べていく。  人間は、自分が好みだと思う異性を、必ずしもつれあいとして選べる訳ではない。この人が一番だとは思えない相手で、折り合いをつけることも、ままある。  のみならず、社会が好みの異性へこだわることを許さぬ場合も、ないではない。夫婦の縁組みは、互いの容姿を知らずに決める。そんなことよりは、家柄や血筋のつりあいを重んじる。つれあいを世間へ披露する、その宴にいたるまで、妻になる人、夫になる人の顔も見ない。そんな夫婦選びさえ、人間はしばしば営んできた。  つれあいの決め方だけに限ったことではない。人間の性欲は、文化のみならず、社会によっても、縛られている。社会もまた、人々の性的な振る舞い、あるいは想いを、ある枠の中に閉じこめてきた。一見解き放っているようにうつる社会でも、性欲があふれ出す向きを整えているものである。  そして、社会が性欲と向き合うそのありようも、一つには限らない。人間は、様々な関わり合いを、これまでに繰り広げてきた。この研究会では、我々がたどってきたその筋道を、追いかけてゆく。  なお、その広がりは、今回も日本を中心とした東アジアの近代に、とどめたい。

共同研究員 青木健一 東京大学大学院理学系研究科・教授
赤枝 香奈子 京都大学大学院文学研究科・特定助教(G-COE)
新井 菜穂子 元国際日本文化研究センター准教授
石田 仁 聖マリアンナ医科大学・非常勤講師
岩見照代 麗澤大学外国語学部・教授
梅川純代 大妻女子大学短期大学部・非常勤講師
小川順子 中部大学人文学部・講師
川井ゆう 武庫川女子大学・非常勤講師
斎藤 光 京都精華大学人文学部・教授
阪本博志 宮崎公立大学人文学部・准教授
澁谷知美 東京経済大学現代法学部・専任講師
申 昌浩 京都精華大学人文学部・准教授
菅沼信彦 京都大学大学院医学研究科・教授
永井良和 関西大学社会学部・教授
中村隆文 神戸女子大学文学部・教授
西村大志 広島大学大学院教育学研究科・講師
ノッター・デビッド 慶應義塾大学経済学部・准教授
古川 誠 関西大学社会学部・准教授
松田 さおり(鴻嶋 さおり) 宇都宮共和大学・専任講師
光石 亜由美 奈良大学文学部・講師
三橋順子 早稲田大学ジェンダー研究所・客員研究員
研究代表者 井上章一 国際日本文化研究センター・教授
幹事 松田利彦 国際日本文化研究センター・准教授
共同研究員 劉 建輝 国際日本文化研究センター・准教授
平松隆円 国際日本文化研究センター・機関研究員
海外共同研究員 唐 権(Tang Quan) 華東師範大学外語学院・助教授(副教授)