■研究活動 共同研究 2008年度

文化の所有と拡散

領域 第二研究域 構造研究

文化は時間と空間を越えて拡散する。そうやって伝わった異文化と触れあうことで、文化の活性化や変容が起こる。文化は他者の存在があってはじめて意識されるものである。それでいて、文化を護るために、あるいはそこから利潤をえるために、他者を排除する所有の意識がつきまとう。 このように、文化には所有と拡散という相容れないふたつの側面がある。それがいまもっとも先鋭に現れているのが、知的財産権、なかでも著作権をめぐる諸問題であろう。内外の巨大な文化産業からの要請で、米国流のプロ・コピーライタト主義を真似た権利保護が、日本でも声高に叫ばれている。 マンガ・アニメなどのサブ・カルチャーは、日本を代表する都的財産だとして、そのソフト・パワーを世界市場で活用する施策が進められている。しかしマンガ・アニメにしても、90年代後半からの日本の政府や産業の努力で海外市場ができあがったのはない。数10年にわたる、いわゆる「海賊版」などの非合法的活動や、海外ファンの個々人の熱情が、マンガ・アニメを日本文化として世界に拡散させ、海外市場が生まれたという事実は、否定できない。 日本の有力なソフト・パワーとされる「伝統文化」を通覧すれば、著作権ができる以前からすでにあるものがほとんどである。つまり、プロ・コピーライト主義で保護することが、後世に残る文化を生み出す唯一の方法ではないことは、あきらかなのだ。 文化的に豊かで実り多い社会を実現するために、文化の所有と拡散についてどのようなスタンスが必要なのか。日本の社会に蔓延しつつある、プロ・コピーライト論とは異なる方向性を模索したい。 この研究会は、著作権のインセンティブ論・人権論のいずれにも与さず。情報のコントロール・モデルや方の運用についての議論には重きを置かない。それらに代わって、ひとびとのあいだを情報が自由に交通するなかで生まれる文化変容や創造、そして文化の所有と拡散が火花を散らしあう現場でのダイナミズムをみちめながら、豊かな文化が生まれる原理とは何かを探究する。 文化の所有と拡散をめぐる、「専門知」を「啓蒙知」に変えていくことを、この研究会の主要な課題とする。

研究代表者 山田奨治 国際日本文化研究センター・准教授
幹 事 細川周平 国際日本文化研究センター・教授
共同研究員 井上 真 東京大学大学院農学生命科学研究科・教授
瓜生吉則 立命館大学産業社会学部・非常勤講師
奥田晴樹 金沢大学人間社会研究域・教授
加藤雅信 上智大学法学研究科・教授
白石さや 東京大学大学院教育学研究科・教授
菅 豊 東京大学東洋文化研究所・教授
杉藤重信 椙山女学園大学人間関係学部・教授
富田倫生 青空文庫・ライター
細川修一 江戸川大学・非常勤講師
増田 聡 大阪市立大学大学院文学研究科・准教授
本橋哲也 東京経済大学コミュニケーション学部・教授
山中千恵 仁愛大学人間学部・講師
岩渕功一 早稲田大学国際教養学部・教授
佐野 真由子 静岡文化芸術大学文化政策学部・准教授
稲賀繁美 国際日本文化研究センター・教授
鈴木貞美 国際日本文化研究センター・教授