■研究活動 共同研究 2008年度

仏教からみた前近代と近代

領域 第一研究域 動態研究

従来の仏教研究は、古代・中世が中心であった。とりわけ、中世の鎌倉新仏教を最高峰と見て、それ以前はその準備段階、それ以後は次第に堕落していく過程と見る見方が暗黙の了解をなしていた。しかし、今日、そのような常識は崩壊しつつある。顕密体制論を経て、中世仏教が必ずしも新仏教中心でないことが明らかにされ、中世独自の世界を解明する方向が進んでいる。また、中世と対比することで、近世や近代の仏教の重要性も認識されるようになっている。さらにまた、仏教史を孤立したものと見ることの限界も明らかにされつつある。中世の神仏習合や近世の儒学・国学などとの関係も視野に入れて、総合的な日本宗教史・思想史を構築することが必要である。しかも、かつての鎌倉新仏教中心論が、じつは近代の虚構であることが明らかにされたことから、古代・中世仏教の解明も決して客観的になされるものではなく、近代という時代の制約を大きく受けていることが知られ、前近代の思想・宗教の解明は、同時に近代の思想・宗教の解明と切り離せないものとなっている。  以上のような研究状況を受けて、この共同研究では、前近代仏教の専門家と近代仏教の専門家の両方に加わってもらい、前近代の仏教と近代の仏教を対比させながら、その転換の意味を探ることを目的とする。また、仏教学だけでなく、広い視野から日本宗教を扱うことのできる宗教学の専門家にも加わってもらうことで、仏教だけに留まらず、日本の宗教史・思想史を総合的に見ていく視座を確立したい。  具体的には、焦点を近世(江戸時代)に当てることにしたい。近世は、古代・中世の思想・宗教が近代へと転換する転換点となる時代であり、しかも、単なる転換点に留まらず、独自の世界を形成している。近世の思想としては、かつては儒教中心といわれてきたが、今日ではその説は完全に否定され、むしろ仏教が民衆の宗教・倫理の根幹として注目されている。近世の仏教は、長い間「近世仏教堕落論」といわれる見方に支配されてきた。それによると、近世の仏教は、政治権力に屈服し、創造的なものを持たないとされ、否定的にしかみられなかった。最近になってようやく、仏教の創造的な面を解明しようという研究が少しずつなされるようになってきた。しかし、そのような研究はいまだ断片的であり、近世の仏教をどう捉えるかについては、これから解明されなければならない問題が多い。  本共同研究では、具体的なテキストの会読と、メンバー相互の発表・討論とを組み合わせながら、近世仏教の流れや、他の思想・宗教との関係を明らかにし、近世仏教の理解に一定の方向を見出したい。それを通して、より大きな課題である、古代・中世仏教が、近世を媒介にどのように近代へと転化するかという問題への見通しを得たい。それによってさらに、仏教に限らない、日本の思想・宗教が全体としてどのように時代的に変遷したかを、総合的に捉えることができるようになるであろう。

研究代表者 末木 文美士 国際日本文化研究センター・客員教授
幹 事 磯前順一 国際日本文化研究センター・准教授
共同研究員 Galen AMSTUTZ 龍谷大学国際文化学部・客員教授
池内 恵 東京大学先端科学技術研究センター・准教授
Silvio VITA イタリア国立東方学研究所・所長
魚川祐司 日本学術振興会・特別研究員
大谷栄一 南山宗教文化研究所・研究員
陳 継東 武蔵野大学人間関係学部・准教授
西村 玲 財団法人東方研究会・研究員
林 淳 愛知学院大学文学部・教授
藤井 淳 日本学術振興会・特別研究員(PD)
藤本龍児 京都大学大学院人間・環境学研究科・教務補佐員
井上章一 国際日本文化研究センター・教授
稲賀繁美 国際日本文化研究センター・教授
小松和彦 国際日本文化研究センター・教授
新井 菜穂子 国際日本文化研究センター・准教授
James BASKIND 国際日本文化研究センター・プロジェクト研究員
徳永誓子 総合研究大学院大学文化科学研究科・博士後期課程