■研究活動 共同研究 2007年度
18世紀日本の文化状況と国際環境
18世紀は世界史的に見ても重要な時期である。西欧世界においては、ジェームズ・ワットによる蒸気機関の発明とそれにともなう産業革命の展開は、近代資本主義システムの勃興をもたらし、政治哲学の分野では、自然法理論と啓蒙主義哲学の盛行が市民革命と近代社会の形成を引き起こしていた。音楽の分野においても、それまでの教会音楽であり貴族層の娯楽的芸術でもあったバロック、ロココの古典的音楽はベートーヴェンによって集大成されるとともに、近代市民社会の音楽として確立されていった。このように18世紀は西欧社会においては近代市民社会形成の胎動期にあたっており、その文化的動向に対しては多方面からなる研究が行われてきた。18世紀学会が専門的に設けられたほどである。 東アジアにおいても18世紀は、やはり豊穣の時代である。中国では清朝の体制は安定し、康熙・雍正・乾隆の三大皇帝による安定的治世と、一連の国家的規模による典籍編纂事業、地誌編纂事業をとおして文運は隆盛をきわめていた。李氏朝鮮においても朱子学が全盛時代を迎えており、ことに中国が満州族による支配を受けたことから、李氏朝鮮は中華文明の正統な後継者をもって任じ、そこでは朱子学を基軸とする儒教文化が両班官僚層によって最も純粋な形で展開されていた。 日本もまた100年を越える持続的平和の中で、18世紀は社会のさまざまな局面において独自性に充ち満ちた文化的発展を見せていた。社会経済活動の分野では、大坂を中心とする全国的な経済ネットワークが形成され、全国規模での商品生産・流通が展開されるとともに、中央市場である大坂では世界に先駆ける形で、証券市場、先物取引のシステムが形成され、経済活動の飛躍的な発展をもたらしていた。政治の分野では公共性理念の顕著な進化が見られ、一方では行政的統治システムの精緻な構築と、他方では「国家・人民のための君主」という国王機関説的な政治理論が普及しつつあった。学問の分野では、儒者の荻生徂徠が古文辞学を唱えて朱子学批判を行うとともに文献学的実証主義の方法論を確立することによって、以後の学術的諸分野における近代的・科学的な思惟の成長の基礎を形成した。 また徳川吉宗の享保改革において推進された一連の国家的プロジェクト―薬種国産化政策、全国物産総合調査、全国的人口調査etc.―は、物産開発のための経済学、自然観察を精緻化する博物学の発達をうながすとともに、それまでの幕府・諸藩という封建的分立割拠の状態を超えて日本列島全体を対象とする事業として展開されたが故に、それは政治形態としての統一的国民国家を志向するものとなっている。 この他にも文学・芸術の分野、文楽・歌舞伎といった舞台芸術の分野などまで含めて、日本の18世紀は豪華絢爛たる文化的内容を誇っている。そしてそれは当然にも、次の世紀の明治維新以後における本格的近代化にとって、それが成功裡に発展していくための諸条件を形成していたということができるであろう。 日本の18世紀の文化的状況はいかにして形成されたか、それらは東アジア世界、また西洋世界までふくめたグローバルな環境の下で、どのような影響を受けつつ、また独自の展開を示していたか。そして欧米世界以外では、なぜ日本が19世紀において独自に近代化を達成しえたのか。本共同研究会では、これら諸問題を総合的に探究する。
代表者 | 笠谷 和比古 | 国際日本文化研究センター・教授 |
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幹事 | フレデリック クレインス | 国際日本文化研究センター・准教授 |
班員 | 岩下 哲典 | 明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部・教授 |
〃 | 伊藤 奈保子 | 広島大学大学院文学研究科・准教授 |
〃 | 魚住 孝至 | 国際武道大学体育学部・教授 |
〃 | 上垣外 憲一 | 帝塚山学院大学文学部・教授 |
〃 | 加藤 善朗 | 京都西山短期大学・教授 |
〃 | 佐伯 順子 | 同志社大学社会学部・教授 |
〃 | 佐藤 次高 | 早稲田大学文学学術院・教授 |
〃 | 武井 協三 | 国文学研究資料館文学形成研究系・教授 |
〃 | 竹市 明弘 | 京都大学・名誉教授 |
〃 | 武内 恵美子 | 秋田大学教育文化学部・准教授 |
〃 | 竹村 英二 | 国士館大学21世紀アジア学部・教授 |
〃 | 谷井 俊仁 | 三重大学人文学部・教授 |
〃 | 谷口 昭 | 名城大学法学部・教授 |
〃 | 辻垣 晃一 | 京都府立福知山高等学校・常勤講師 |
〃 | 芳賀 徹 | 元京都造形芸術大学学長 |
〃 | 長谷川 成一 | 弘前大学人文学部・教授 |
〃 | 林 淳 | 愛知学院大学文学部・教授 |
〃 | 平石 直昭 | 元東京大学社会科学研究所教授 |
〃 | 平木 實 | 京都府立大学文学部・非常勤講師 |
〃 | 平松 隆円 | 佛教大学大学院教育学研究科・博士後期課程 |
〃 | ヘルベルト・プルチョウ | 城西国際大学人文学部・教授 |
〃 | 前田 勉 | 愛知教育大学教育学部・教授 |
〃 | 真栄平 房昭 | 神戸女学院大学文学部・教授 |
〃 | 松田 清 | 京都大学大学院人間・環境学研究科・教授 |
〃 | 松山 壽一 | 大阪学院大学経営科学部・教授 |
〃 | 宮崎 修多 | 成城大学文芸学部・教授 |
〃 | 森田 登代子 | 桃山学院大学文学部・非常勤講師 |
〃 | 横谷 一子 | 大阪医療福祉専門学校・講師 |
〃 | 脇田 修 | 大阪歴史博物館・館長 |
〃 | 和田 光俊 | 科学技術振興機構研究基盤情報部電子ジャーナル課・課長 |
〃 | 稲賀 繁美 | 国際日本文化研究センター・教授 |
〃 | 白幡 洋三郎 | 国際日本文化研究センター・教授 |
〃 | 早川 聞多 | 国際日本文化研究センター・教授 |
〃 | パトリシア フィスター | 国際日本文化研究センター・教授 |
〃 | 新井 菜穂子 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | 山田 奨治 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
〃 | 落合 恵美子 | 京都大学大学院文学研究科国際日本文化研究センター・教授客員教授 |
〃 | 川勝 平太 | 静岡文化芸術大学国際日本文化研究センター・学長客員教授 |
〃 | 佐野 真由子 | 静岡文化芸術大学国際日本文化研究センター・専任講師客員准教授 |