■研究活動 共同研究 2006年度

「文明交流圏」としての「海洋アジア」

「海洋アジア」という用語は、研究代表者が「大陸アジア」と区別する目的で用いたのが最初だが、近年、社会経済史の分野では違和感なく使われるようになった。ただ、他分野では用語として定着しているわけではないので、若干の説明をしておきたい。「海洋アジア」は、おおまかには「海洋東アジア」と「海洋南アジア」と、両者が交わる「海洋東南アジア」の3つの海域世界(沿海を含む)からなる。それぞれの海域世界には特色があり、それを主な宗教で特徴づければ、「海洋南アジア」はイスラム教とヒンズー教、「海洋東アジア」は儒教、道教、シャーマニズム、「海洋東南アジア」は上記の宗教のほかにキリスト教や仏教のほか、ほぼすべての宗教が混在することから知られるように、三者三様である。  海洋は、陸地を隔てる境界にもなるが、離れた陸地同士を結ぶ媒介でもある。特に「海洋アジア」は、先史時代より、人々が船で移動し、文物を運び、交換・交易し、文物の伝播に多大の役割を果たしてきており、まさに文化・文明の交流圏としての特徴をもっている。「海洋アジア」の中央にある「海洋東南アジア」に様々な宗教が混在しているのはその証しである。この海域は近代文明の勃興とも無縁ではない。研究代表者などが明らかにしたように「海洋南アジア」はヨーロッパに勃興した近代文明の土台となり、「海洋東アジア」は日本に勃興した近代文明の母体にもなった。  冷戦後、世界はEU(欧州連合)、北米、「東アジア」(近年の用法で、「東アジア」は東北アジアと東南アジアの総称であり、国では「ASEAN{東南アジア諸国連合}プラス3{日・韓・中}」)の三極に分化している。「東アジア」は、島国日本はもとより、韓国、台湾、香港、中国沿岸部、東南アジアなど、いずれも海に面しており、EUと北米が大陸であるのに対して、「海洋東アジア」というほうが正確であろう。「ASEANプラス3」の首脳が「東アジア共同体」をつくる動きが2005年より本格化することになったが、それはまさに海洋の共同体なのである。現代の「海洋アジア」は、全体としては、西は中東から、東南アジア・台湾を経て、朝鮮半島に至るまで、政情が不安で、その海域の形状が全体として弧状をなしていることから国際関係論では「不安定な弧」と呼ばれている。  本共同研究では、現在の「海洋東アジア」が「東アジア共同体」の基礎となりつつあるという現実や、「海洋アジア」が「不安定な弧」と見られているという現実などを念頭におきながら、歴史的には様々な文化・文明圏に属する人間と文物の交流した「交流圏」としての「海洋アジア」の実態を、この海域世界が「平和の弧」として「海の文明」たりうるかどうか、その可能性を含めて、多面的にさぐる。

代表者 川勝 平太 国際日本文化研究センター・教授
幹事 松田 利彦 国際日本文化研究センター研究部・助教授
班員 アレキサンダー・ベネット 帝京大学文学部・講師
李 珦淑 帝京大学・非常勤講師
鵜飼 政志 学習院大学文学部・非常勤講師
金子 晋右 城西大学・非常勤講師
北  政巳 創価大学経済学部・教授
北川 勝彦 関西大学経済学部・教授
久米 高史 埼玉工業大学人間社会学部・非常勤講師
島田 竜登 西南学院大学経済学部・講師
高橋  周 大東文化大学経済学部・非常勤講師
辻 智佐子 城西大学経営学部・講師
中村 宗悦 大東文化大学経済学部・教授
濱田  陽 帝京大学短期大学・講師
松島 泰勝 東海大学海洋学部・助教授
宮田 昌明 立命館大学文学部・非常勤講師
宮田 敏之 東京外国語大学外国語学部・助教授
武藤秀太郎 日本学術振興会特別研究員
四方田雅史 山梨学院大学商学部・非常勤講師
本野 英一 早稲田大学政治経済学部国際日本文化研究センター・教授客員教授
ザヤス シンシア ネリ 国際日本文化研究センター・客員外国人研究員
ロバート エスキルドセン 国際日本文化研究センター・客員外国人研究員