■研究活動 共同研究 2006年度
文化の所有と拡散
文化は時間と空間を越えて拡散する。そうして伝わった異文化と触れあうことで、文化の活性化や変容が起こる。文化は他者の存在があってはじめて意識されるものでもある。それでいて、文化を護るために、あるいはそこから利潤をえるために、他者を排除する所有の意識がつきまとう。 このように、文化には所有と拡散という相容れないふたつの側面がある。それがいまもっとも先鋭に現れているのが、知的財産権、なかでも著作権をめぐる諸問題であろう。内外の巨大な文化産業からの要請で、米国流のプロ・コピーライト主義を真似た権利保護が、日本でも声高に叫ばれている。 マンガ・アニメなどのサブ・カルチャーは、日本を代表する知的財産だとして、そのソフト・パワーを世界市場で活用する施策が進められている。しかしマンガ・アニメにしても、90年代後半からの日本の政府や産業の努力で海外市場ができあがったのではない。数10年にわたる、いわゆる「海賊版」などの非合法活動や、海外ファンの個々人の熱情が、マンガ・アニメを日本文化として世界に拡散させ、海外市場が生まれたという事実は、否定できない。 日本の有力なソフト・パワーとされる「伝統文化」を通覧すれば、著作権ができる以前からすでにあるものがほとんどである。つまり、プロ・コピーライト主義で保護することが、後世に残る文化を生み出す唯一の方法でないことは、あきらかなのだ。 文化的に豊かで実り多い社会を実現するために、文化の所有と拡散についてどのようなスタンスが必要なのか。日本の社会に蔓延しつつある、プロ・コピーライト論とは異なる方向性を模索したい。 この研究会は、著作権のインセンティブ論・人権論のいずれにも与さず、情報のコントロール・モデルや法の運用についての議論には重きを置かない。それらに代わって、ひとびとのあいだを情報が自由に交通するなかで生まれる文化変容や創造、そして文化の所有と拡散が火花を散らしあう現場でのダイナミズムをみつめながら、豊かな文化が生まれる原理とは何かを探究する。 文化の所有と拡散をめぐる、「専門知」を「啓蒙知」に変えていくことを、この研究会の主要な課題とする。
代表者 | 山田 奨治 | 国際日本文化研究センター・准教授 |
---|---|---|
幹事 | 細川 周平 | 国際日本文化研究センター・教授 |
班員 | 秋道 智彌 | 総合地球環境学研究所・教授 |
〃 | 市古 夏生 | お茶の水女子大学文教育学部・教授 |
〃 | 井上 真 | 東京大学大学院農学生命科学研究科・教授 |
〃 | 奥田 晴樹 | 金沢大学教育学部・教授 |
〃 | 加藤 雅信 | 名古屋大学大学院法学研究科・教授 |
〃 | 白石 さや | 東京大学大学院教育学研究科・教授 |
〃 | 菅 豊 | 東京大学東洋文化研究所・教授 |
〃 | 杉藤 重信 | 椙山女学園大学人間関係学部・教授 |
〃 | 立岩 真也 | 立命館大学大学院先端総合学術研究科・教授 |
〃 | 富田 倫生 | 青空文庫・世話人・ライター |
〃 | 中野 三敏 | 九州大学・名誉教授 |
〃 | 細川 修一 | 江戸川大学・非常勤講師 |
〃 | 牧野 二郎 | 牧野総合法律事務所・所長 |
〃 | 増田 聡 | 大阪市立大学大学院文学研究科・講師 |
〃 | 丸川 哲史 | 明治大学政治経済学部・講師 |
〃 | 本橋 哲也 | 東京経済大学・コミュニケーション学部・教授 |
〃 | 山中 千恵 | 大阪大学大学院人間科学研究科・助手 |
〃 | 義江 彰夫 | 帝京大学経済学部・教授 |
〃 | 稲賀 繁美 | 国際日本文化研究センター研究部・教授 |
〃 | 鈴木 貞美 | 国際日本文化研究センター研究部・教授 |
〃 | 早川 聞多 | 国際日本文化研究センター研究部・教授 |
〃 | 岩渕 功一 | 早稲田大学国際教養学部国際日本文化研究センター・助教授・客員助教授 |
〃 | チャワリーン・サウェッタナン | 国際日本文化研究センター・客員外国人研究員 |
〃 | 岩井 茂樹 | 国際日本文化研究センター・技術補佐員 |