■研究活動 共同研究 2004年度

文化としての植物-日本の内と外-

日本列島は植生の豊かさでは世界でも有数の地である。古典文学、絵画にも、その多様な反映が見られることはいうまでもない。なかでも、俳句の季語に植物に関連する語彙が採用されている比率の高さは特筆に値しよう。  一方で、日本は大陸の周縁部に位置することから、大陸の先進文明国であった中国から伝来したウメやモモに見られるように、植物への接し方も併せて摂取し吸収していったことが明らかである。だが、時代とともに日本独自の接し方も誕生し発達した。たとえば、ツバキの品種「侘助」に代表される一重の小輪花好み、班入りや獅子芸などを代表とする葉芸への好尚は、中世以降の日本に起こった、世界に類例を見ない独自の美意識である。また、盆栽はもと中国に由来する樹木の鑑賞形式であるが、その理想とする形態は、今日では中国と日本の間で大きな隔たりを見せている。明治以降に本格的に移入されたサボテン、多肉植物の観賞においても、とりわけ好みにあう個体を実生により選抜育種したり、班入りや綴化(cristata)、石化(monstrosa)などの分野を発達させる傾向がみられる。  幕末から明治にかけて、おおくの日本原産の植物が欧米に紹介され、このうちのいくつかは外国で園芸植物として高く評価されて、数々の新品種が育成されるなど、めざましい発展をとげた。アオキ、アジサイ、ギボウシ、ツバキなどであるが、これらは日本原産でありながら、様々な理由により、日本では必ずしも最高の評価を受けていたとは言いがたい種であることが注目される。近年、これらの新品種は逆輸入されて、日本人の古来の好みを変えてゆく傾向がみられる。他方で、アサガオ、オモト、サイシン、サクラソウ、ナンテン、フクジュソウ、マツバラン、マンリョウ、ヤブコウジなどは、日本における伝統的な評価のわりに、世界には広がっていない種である。  アオキ型とアサガオ型の差異はどこから生まれているのか。目を転ずれば、世界の様々な栽培先進国においても、自国に固有な植物の世界の伝播について、同様の現象が生じていると思われる。  植物の接し方の変化と多様性を通して、世界における日本文化の特質を考えたい。

代表者 光田 和伸 国際日本文化研究センター研究部・助教授
幹事 劉  建輝 国際日本文化研究センター研究部・助教授
班員 小川 佳世子 京都造形芸術大学・非常勤講師
荻巣 樹徳 東方植物文化研究所・主宰
押川 加諸莉 武庫川女子大学・非常勤講師
加藤 類子 元池坊短期大学教授
黒柳 敦子 京都女子大学短期大学部・非常勤講師
小林 善帆 滋賀県愛知川町教育委員会・非常勤職員
横谷 一子 近畿大学豊岡短期大学・非常勤講師
川勝 平太 国際日本文化研究センター研究部・教授
早川 聞多 国際日本文化研究科文化資料研究企画室・教授
山田 奨治 国際日本文化研究センター研究部・助教授
ボイカ・エリトヴァツィゴヴァ ソフィア大学東アジア学科・準教授