■研究活動 共同研究 2002年度

1920-1970の五十年間にわたる日本文学・日本文化の連続性・不連続性

二十一世紀の初頭にあたって客観的な眼で二十世紀を回顧してみるのも意義あることだと思われます。五十年代以降、事ある毎に、「戦後は終わった。」という言葉を耳にします。しかし現在も尚、大部分の人々は戦前・戦後というカテゴリーで物を考え、二十世紀を明確に二つに分割し、相対するものとして取り扱っています。その為1945年、第二次世界大戦での敗戦時を完全なる終結点、或いは新たな出発点と捉えている観があります。終戦時を現代日本発展途上での折り返し点、境界線と位置付け、連続性を否定しています。  1945年を境にして政治制度、憲法、家族構成、女性の地位等に関して一大改革がなされたことは疑問の余地がありません。しかし、文化の発展をこれ等と同じように扱う事が可能でしょうか。1930年代には、文学、文化活動が制限され、時には禁止されさえもしました。作家は投獄されたり、時の政策に迎合する事を余儀なくされたり、作家活動から遠ざかり、沈黙を守ったり、一種の内面的、精神的亡命時代を過ごしました。 しかし、戦後間もなく彼等は再び姿を現し、一時中断したその時点から活動を再開しました。作家の中には、当時のイデオロギーや戦争が災いし、致命的な痛手を被った人も確かに存在しました。しかし全般的にみて、1935年から1945年までの十年間は不幸な幕間、一種の空白時代で文化発展の連続性に対して根本的な打撃を与えてはいないのではないでしょうか。換言すれば、社会、政治面での不連続性が文化面での連続性と対峙しているともいえましょう。かかる問題を現時点で今一度考察してみる必要があると思います。  研究の対象とする時代は、厳格に区切ってしまう気はありませんが、大体1920年から1970年の五十年間ということにします。即ち、第一次大戦後の様々な革新の時代から始めて、日本が現世界で経済的、文化的国家としての地位を確立する時代で終わる予定です。  研究対象の中核は、文学、詩歌、ドラマですが、音楽、造形美術、映画、生活様式等、幅広い社会的コンテクストも取り扱います。  今回の研究プロジェクトの目的は様々な分野からのアプローチを通して1920年から1970年迄の五十年間のパノラマ的展望を勝ち取ると同時に、私の希望としては此のプロジェクトを通して、日本の歴史上でこの五十年間を正確に位置付け、場合によっては今迄の見方とは違った新たな像に到達する事です。

代表者 クロップェンシュタイン・エドゥアルド 国際日本文化研究センター・外国人研究員
幹事 鈴木 貞美 国際日本文化研究センター・教授
班員 阿毛 久芳 都留文科大学文学部・教授
小田川大典 岡山大学法学部・助教授
小田川理絵 佛教大学・非常勤講師
黒古 一夫 筑波大学図書館情報専門学群・教授
島村  輝 女子美術大学・教授(相模原)
種田和加子 藤女子大学文学部・教授
坪井 秀人 名古屋大学情報文化学部・教授
十重田裕一 早稲田大学文学部・助教授
中川 成美 立命館大学文学部・教授
長谷川 啓 城西大学女子短期大学部・教授
林  洋子 京都造形芸術大学芸術学部・助教授
渡辺 知也 大阪女子大学人文社会学部・教授
稲賀 繁美 国際日本文化研究センター・助教授
劉  建輝 国際日本文化研究センター・助教授
白石 さや 東京大学大学院教育学研究科  国際日本文化研究センター・教授 客員教授
孫 才喜 国際日本文化研究センター・非常勤研究員