■トピックス  2019年

2019-07-22 日文研の話題

[日文研フォーラム・リポート]民衆宗教が越境した理由とは――歴史的真実に迫る(2019年7月5日)

 7月5日、ハートピア京都にて、比較思想や日中関係を専門とする孫江・外国人研究員(南京大学教授)を講師に迎え、日文研フォーラムが開催されました。「越境する民衆宗教――大正・昭和前期における大本教と道院・紅卍字会の関係を中心に」と題した講演には191名が参加しました。

 1892(明治25)年、神がかりした出口なおを開祖として京都府に生まれた大本教と、中国の宗教結社「道院」附属の慈善団体として1922(大正11)年に設立された紅卍字会。講演では、大正時代の関東大震災をきっかけに始まった、二つの民間宗教団体の交流の軌跡を、これまではほとんど知られていなかった実際の事件や関係者の証言資料などから明らかにしました。

 近代国家建設の狭間において、大本教は、既存の宗教や政治に対する批判などを通じ、知識人や軍人をはじめ、一般大衆にまで信徒を拡大しました。しかし不敬罪の容疑で逮捕者を出し、当局の弾圧を受けると、やがて朝鮮半島や満洲などに新天地を求めるものの、これが日本の中国侵略を後押しすることにもつながっていきます。一方の紅卍字会も普遍的救済の理念を海外でも実践すべく、大本教と提携して日本でも活動を展開しますが、中華人民共和国成立後は対日協力が問題視されて鎮圧されていきました。

 発表後、コメンテーターを務めた劉建輝副所長は、特に関東大震災直後には紅卍字会から日本に対し、米2千袋(1袋140斤入)と多額の義援金が贈られたエピソードに触れ、「その後の戦時中でも民間では支え合っていた歴史的事実を忘れずに、今日の日中両国の関係を民間から回復していきたい」と述べました。会場からの活発な質問が続いた後、孫研究員も最後にニーチェの言葉を援用し、「歴史は和解の道具、相互理解の道具として使われるべきだ」と応じました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)