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第5回 日文研―京都アカデミック ブリッジ「時代劇をつくろう 太秦の力」を開催しました(2022年8月11日)

2022.08.18
 8月11日、京都新聞との共催による「第5回 日文研-京都アカデミック ブリッジ」が、京都新聞文化ホール(中京区)で開催され、114名が参加しました。今回は「時代劇をつくろう 太秦の力」をテーマに、京都市出身の作家・澤田瞳子氏、東映京都撮影所でスクリプターとして活動後、脚本家に転身し、現在は立命館大学映像学部准教授でもある谷慶子氏、テレビドラマ等で活躍中の俳優・脚本家の三谷昌登氏、日文研の磯田道史教授の4名が、過去から現代までの時代劇に寄せる思いや、撮影所としての京都太秦の魅力、時代劇の将来などについて賑やかに語り合いました。

 松田利彦副所長による開会挨拶に続き、西田彰一プロジェクト研究員の進行のもと、それぞれに時代劇との関わりを紹介する形でスタートしました。磯田教授は、原作者として参加した映画『武士の家計簿』(森田芳光監督、2010年)の松竹京都撮影所での製作裏話を披露。監督の指示がなくても各シーンの撮影意図に沿った気働きができるスタッフの存在や、撮影所を取り巻く支援産業のあり方そのものがまさに「太秦の力」だと述べました。

 谷氏は、恩師である映画監督の中島貞夫さんから「脚本を学びたいならまずは現場を覚えろ」と諭され、時代劇の世界に飛び込んだと言います。『銭形平次』や『暴れん坊将軍』など約250本の作品にスタッフとして参加した経験から、衣装・小道具・照明以外にも、言葉遣いや所作などの目に見えない知識・技術を伝承していくには、今後も時代劇を作り続けるしかないと警鐘を鳴らしました。

 ふだんは奈良や平安といった古い時代を取り上げることが多いと語る澤田氏からは、「現代の人に合わせて書こうとすると、どんどん言葉が死んでいく」という興味深い発言が聞かれました。若い編集者も増え、分かりやすさが求められる昨今、「それでも書いていかないと読者も育たない」と。現代に向けた「翻訳小説」と捉え、折り合っていくしかないとの言葉の裏に、歴史小説執筆の難しさが覗きました。

 祇園出身で、時代劇を子守唄代わりに育ったという三谷氏は、「時代劇はかっこいい、それがすべて」と、東映の大部屋から俳優活動を始めたきっかけを語りました。人件費を含め、大がかりなセットや衣装・小道具などに莫大な費用がかかる一方で、必ずしも黒字が見込めず製作数が減少傾向にある時代劇に対して、「価格破壊をしたい。低価格の時代劇を京都から発信すべきではないか」と述べ、大河ドラマの誘致や若い世代への訴求など、京都の撮影所を活性化するための積極的な提言もなされました。

 後半のディスカッションには、クレインス副所長も加わり、いま歴史考証を担当しているアメリカでの時代劇映画製作に絡み日本とは別の見かたを紹介しました。そして最後に、登壇者一人ひとりが、いつか作ってみたい時代劇のアイデアを披露してくれましたが、ここでは内緒にしておきます。どうぞ今後の展開をお楽しみに。

(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)

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