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[人コミュ通信 vol.18]企画展「縮小社会のエビデンスとメッセージ:人口・経済/医療・福祉/教育・文化/地域・国際、そしてマンガ」にかける想い――企画者・山田奨治教授にお話をうかがってきました

2022.04.08

日文研の人文知コミュニケーター、光平有希〔 光)〕です。国際日本文化研究センターの活動や教員、そして所蔵資料の魅力を定期的にお届けしている「人コミュ通信」。18回目となる今回は、2022年1月22日から5月16日まで京都国際マンガミュージアムで開催されている「縮小社会のエビデンスとメッセージ:人口・経済/医療・福祉/教育・文化/地域・国際、そしてマンガ」展の企画者、山田奨治先生〔 山)〕に本展にかける想いや資料の見どころについて、お話をうかがってきました。


光)どうぞ宜しくお願いします。まず、山田先生のご専門についてご紹介いただけますでしょうか。

山)情報学と文化交流史を専門としています。研究者としての出発点は、いまでいうところのデジタル・ヒューマニティーズの分野です。その後、人文社会系に研究のウィングを広げ、著作権と文化の関係、日本の禅や大衆文化が国際化していった過程なども研究し、成果を出版しています。

光)ありがとうございます。お話をうかがう「縮小社会のエビデンスとメッセージ:人口・経済/医療・福祉/教育・文化/地域・国際、そしてマンガ」展は、山田先生が代表を務めておられる共同研究会がその母体となっていますよね。展示構成の「核」というべき多岐にわたるテーマ設定は、さまざまな研究分野の専門家が参画されている研究会による企画ならではと思います。テーマを決定するまで、あるいは企画展の趣旨を考えるなかで交わされた議論やエピソードがありましたら、ぜひ教えてください。

山)日本の「縮小社会」をテーマにしたのは、いま考えるべきことだと思ったからです。社会・経済的な側面からの「縮小社会」の研究はすでに多くなされていますが、それが文化に与える影響を考えている研究者は、比較的少ないように思いました。MM(「京都国際マンガミュージアム」の略称)での企画展のアイデアは、共同研究会メンバーといっしょに嵐山で飲んでいたときに出てきたものです。研究会からの発信方法としては、論文集を出すだけで終わらない形が近年は求められています。

わたしには展示の経験がほとんどなく、この企画はチャレンジングで刺激的なことでした。8つのトピックと「そしてマンガ」という切り口は、京都精華大学の吉村和真さんから出てきたものです。概念を展示空間に落とし込むには、実に優れた切り口でした。展示経験が豊富な吉村さんならではのアイデアと思い、そのまま採用させてもらいました。

光)そうなんですか。吉村先生は、マンガ研究成果の社会発信や還元にも積極的に取り組まれていますよね。今回、会場では現代社会に起きている実相がエビデンスという形で示されています。ところが、そのエビデンスを見ていくうちに、そこで生きる人たちへのヒントもちりばめられているような、そういった印象を持ちました。それから、展示では「答え」を提示したり、「結論」を示すことをあえて避けているようにも感じました。それは意図したものなのでしょうか。

山)その通りです。展示はあえて「答え」を見せない方針にしました。「正しい答え」などないからです。研究者がみているデータ・エビデンスをなるべくそのまま展示し、来館者自身が「縮小社会」を「自分のこと」として考えるきっかけにしてほしいと思っています。そこから未来を生きるヒントを何か見出してもらうことまでは意図していませんが、そういう反応があればうれしいですね。

光)展示の見どころ、そして展示内容や見せ方で工夫された点についても教えてください。並行してヴァーチャル展示も公開されていますよね。

山)今回は、現代アーティストの髙橋耕平さんに展示構成を依頼しました。概念を展示することに関してはピカイチの腕前を持っている方です。また、マンガ家のしりあがり寿さんには、企画展のキャラクター「シュクちゃん、ショウさん」の制作、そして各テーマに関する新作の4コママンガを描いていただきました。大きくわけて4つのセクションにそれぞれ企画者を立て、共同研究会のたびに企画の検討を重ねました。

展示場の各セクションにエビデンスとともに映像や象徴展示物を配置し、しりあがりさんのマンガを床に展開して観客の動線を誘導するなど、退屈な学会のポスター発表のようにならないよう、髙橋さんが工夫してくれました。なかでも、野村知広さんと下司雅英さんが福祉施設での日常生活の一部として作っておられる折り紙・切り紙の「作品」には、近代的な美的感覚を揺さぶるものがあります。画家の川村淳平さんがコピックで描いた「和食」の原画作品も見応えがあります。

光)どれも素晴らしいですが、私は折り紙・切り紙の「作品」の前で長らく足を止めて見入ってしまいました。

山)そうですか。ヴァーチャル展示については、コロナでミュージアムが閉まることを見越して、当初から準備していました。幸い、閉館にまではいたっていませんが、会期の当初からまん延防止等重点措置にかかってしまいましたので、準備しておいてよかったです。

光)来場できない方々も臨場感をもって鑑賞できるさまざまな仕掛けがあり、非常に興味深く拝見しました。今回の企画展は、「縮小映画祭」や5月に開催されるシンポジウムなど、関連イベントが充実している点にも特徴があると思います。展示だけではなく、こうしたイベントはどのような意図があって企画されたのでしょうか。

山)リモート開催にはなりましたが、「縮小映画祭」では4つの優れたドキュメンタリー映画を上映し、監督を交えてのトークセッションを行いました。これには映画研究者で「教育・文化」セクションの企画者でもある谷川建司さんが尽力してくれました。各回100名の定員を設けたのですが、「満席」になった回、それに近い回がありました。リモート開催の恩恵で、日本全国に加えて海外からも参加があり、申込み者には著名な研究者のお名前もいくつかありました。その他の関連イベントについても、展示に関わったメンバーからの提案によるもので、わたしの仕事はそれらを実現していくことだけでした。

光)最後に、これから企画展に来場される方にメッセージをお願いします。

山)3月22日でまん延防止等重点措置が解除され、お出かけには適した季節になっています。5月16日までですので、ぜひご観覧ください。

光)是非とも多くの方にご来場いただけたらと願っております。本日は本当にありがとうございました。

山)ありがとうございました。


◆企画展「縮小社会のエビデンスとメッセージ:人口・経済/医療・福祉/教育・文化/地域・国際、そしてマンガ」の詳細は以下をご覧ください。
https://ys.nichibun.ac.jp/shukusho/

◆山田教授の著作についてご紹介した過去の記事もぜひご覧ください。
[人コミュ通信 vol.7]休校中のおうち学習にぜひ!日本図書館協会選定図書『情報のみかた』のご紹介(小学校高学年以上対象)

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