総持寺の縁起を語る本文は、藤原高房親子二代にわたる亀の報恩譚を説く。画面は海に沈み消えた子が、大亀に乗って船へと近づいていくところである。船では藤原高房が合掌して、乳母が船べりから身をのりだしている。
 本寺の報恩譚は、古く『今昔物語集』に収載する。高房は西国への赴任途中殺されようとする亀を買い取り、逃がした。翌朝高房の子は、乳母に海中に落とされ高浪に浚われたが、助けた亀の背に乗って無事に救われるという。
 高房は、観音に報謝するため遣唐使大神御井に依頼し、唐に白檀の銘木を求める。しかし香木を見ぬまま高房は没した。御井は「求めに応じて海に流す」と白檀に記し、海に放ったところ、太宰府の政朝のもとに漂着したという。総持寺本尊は亀の上に立つ千手観音で、両脇侍に難陀竜王と赤精童子という長谷寺と同じ配置をとる。この特徴、すなわち香木・亀の報恩・長谷寺観音との関連という要素は、『今昔物語集』に端を発するこの縁起を裏づける。
 
廣重美術館蔵

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