中央の人物は東山岡崎に住む大工である。亀山に住むおばの危篤を聞いて旅支度し、急ぎ出立しようとする場面である。笠と風呂敷包みが傍らに置かれる。
 後ろに立つ妻は、大工を道中人知れず亡き者にするため、毒飯入りの弁当を手にしている。扁額受けにかけられたものから出ている放射状の朱の線は、不思議な光を放つ表現である。妻の表情は、その光に驚いたものであろう。左に立つ草鞋の片方を差し出す人物は、謀計をめぐらした妻の浮気相手である。
 『観音経』に「呪いと諸々の毒薬に身をそこなわれんとするものは、彼の観音の力を念ずれば、それを用いた本人に還っていく」と説かれているように、二人が悪瘡により死に至ったすることを表現している。
 
廣重美術館蔵

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