良弁僧正が筵に座し、小刀で如意輪観音像を彫っている。鎌倉時代成立『石山寺縁起絵巻』によると、本尊は如意輪観音で、六寸(十八センチ強)。これを丈六の尊像に納めたというから、良弁が手にしているのは胎内仏かもしれない。
 画面は良弁が手を止めて振り返り、背後の漁師とともに遠望する。漁師が釣竿を肩に魚籠をかけ、笠を被って立っている。漁師は比良の神で、この地〈石山〉が観音の霊地であることを良弁に告げるため示現したのである。先出の『石山寺縁起絵巻』では、良弁の前に示現した比良の神は朱の袍を着し、赤い頭巾を被って釣り糸を垂れる。
 霊験譚は@良弁は吉野の金峯山の金を掘ろうとして、蔵王権現から断られたこと。Aかわりに示された瀬田に赴き金の産出を祈念したところ比良の神が現れた。B比良の神の教えたとおり石山寺に如意輪観音を刻み、供養した。Cそのお陰で、奥州より金が献上されたと記されている。しかし、本図はAとBの時間経過を逆に絵画化している。
 
廣重美術館蔵

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