机に伏している中臣信近は蛇眼瘡という首の周りに瘡が出来て腫れる業病を患い、痛みをこらえている。
 傍らには供膳にのせた折封の「御守」を手にした驚き顔の女房がいる。彼女は今にも倒れそうな姿勢である。蛇の胴体には今しがたまで信近の頸にあった蛇眼瘡が描かれている。蛇をくわえた烏が飛び立つ羽音に信近は気付く素振りもない。それもそのはず、長谷寺から烏が来て、病巣にいた小蛇を食いだす夢を見ているのである。
 本文中にないお守・女房を描き、烏をリアルに表現することによって、信近の夢が、本図を目にするものの眼前で起きたことのように感じさせる。その〈虚〉と〈実〉を反転させる装置が境内を描く画中画の扁額である。
 扁額中、長大な回廊を有する長谷寺の一山は、花霞につつまれている。
 
廣重美術館蔵

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