左手で黒駒の手綱を執り右手に刀を下げる武者姿の人物は、小子部栖軽である。画面は、彼が雷神を生け捕りにしようと阿部山のふもとを疾走している様子を描いている。
 画面上方、扁額中の壷阪寺からは一条の光明が射し、馬上の栖軽に向けて放たれている。ここでの扁額は、単なる描かれた霊場図絵ではなく、壷阪寺そのものを表現している。
 その光明は、稲妻よりも強力に画面を照らし、力強い構図となっている。扁額の縁にあたる部分、光明が照らす空中から、経巻がほどけながら落ちて来ている。この経典は、観音を念ずるならば雷雹を消散することを説いた『観音経』であると推測される。このように、霊験譚にない事象を描き入れることで、経典の威力を強調している。
 
廣重美術館蔵

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