渋川佐太夫は柄杓をさし、御験記型灯籠と呼ばれる方形の灯籠を左手に持ち、笈摺を着す。背負われた娘の笈摺には背に「妙果」の文字が見える。画面は、団扇簪をさすところから初夏の出来事であると推測され、観音の霊験により病が癒えて、御礼参りに旅立った親子連れが登場している。
 画面向かって右下方から立ち昇る霊気は、観音の化身である童子を涌出させ、扁額中の本堂を包みこんでいる。この霊気は、本尊千手観音の霊威と、千手陀羅尼の験力を表していると思われる。その中には、未敷蓮華と箸紙(箸筒)をもった童子が描かれている。画面手前には、箸筒を差し出す童子を振り返って仰ぎ見る親子の姿がある。霊験譚によれば、箸筒をもつのは千手観音であるが、娘の病床に現れた童子の姿で描かれている。
廣重美術館蔵

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