扁額には雲間に覗く紀三井寺が描かれている。札名は楊柳水、十一面観音、七本桜の所在を示し、御詠歌は雲に記される。画面中、威光上人は、法衣の上に袈裟をまとい、頭巾をかぶる姿で現され、その前の経机には、経典と香炉が置かれている。
  霊験譚で上人は『般若経』を写経していたことになっているが、画面では経巻を読誦している。龍女は威光上人の後方で、桜の枝と法螺貝を持ち、霊気の上に影現した姿で描かれる。
  三代目歌川豊国は芝居絵を得意とした絵師で、この観音霊験記にも随所に芝居版画の要素がみられる。逆にいえば、寺院の縁起が、歌舞伎の一シーンのごとく描かれているところに、この作品の魅力がある。
廣重美術館蔵

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