境内図には札名(短冊形に名称を記した標示)をともなったかね石・貝石・如意輪堂、二の滝、しめ縄が渡された滝が描かれる。画面下方には杖と神歌を記す短冊を手にした参詣姿の和泉式部が立ち、お供が座している。
 和泉式部の視線の先をたどると、扁額中の一の滝となり、その流れが画面前方に水量を増して流れ落ちているかのように見える。
 実際の景観である寺域(=聖なるものの空間)が画中画であらわされ、虚構であるはずの霊験譚が見る側(=俗なる世界)と地続きに描かれる。つまり本図を見るものは、現実の霊場に参詣し、和泉式部とともに那智の滝を仰ぐような視線の〈仕掛け〉が絵の中に組み込まれている。
廣重美術館蔵

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