開山(かいさん)
 斎遠禅師(さいゑんぜんし)

 斎遠(さいゑん)ハ殊(こと)に観音(くわんおん)を信(しん)じ或(ある)大雪(おほゆき)の日(ひ)法華経(ほけきやう)を読誦(どくじゆ)せしに一鉢(いつはち)の貯(たくハへ)もなくなりて既(すで)に飢死(うへじに)に及(およ)ぶ所(ところ)ふしぎに庭前(ていぜん)に鹿(しか)の足(あし)あり是(こ)ハ三浄肉(さんしやうにく)なりと煮(に)て喰(くら)ひ猶(なほ)怠(おこた)らず経(きやう)を一信(いつしん)に読(よミ)ける所(ところ)へ里人(さとびと)食物(しよくもつ)を背負(せおひ)て来(きた)り此(この)大雪(おほゆき)に御坊(ごぼう)ハさぞかし飢(うゑ)玉ふべしといへバしか゛/\のことありて飢(うゑ)ずと語(かた)れバ里人(さとびと)ふしぎなることゝ其(その)鍋(なべ)の中を見(ミ)れバ鹿(しか)の肉(にく)にハあらで桧(ひのき)の削屑(けづりくず)のミあり驚(おどろ)きてそれを見すれバ斎遠(さいゑん)も惘(あき)れはて本尊(ほんぞん)を拝(はい)し見(ミ)れバ尊体(そんたい)の腰(こし)より下(しも)に削(けづり)たる痕(あと)ありさてハ此(この)大士(だいじ)吾食(わがしよく)となりて飢死(うゑじに)を救(すく)ひ玉ふ有難(ありがた)さよと祈念(きねん)してその削屑(けづりくず)を尊体(そんたい)の疵(きず)へ押(お)あてけれバ痕(あと)もなく元(もと)のごとくに成相(なりあい)けれバ茲(こゝ)をもつて成相寺(なりあいじ)と号(がう)し今(いま)に験(れいげん)あらたかなり

廣重美術館蔵

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