開山(かいさん)
 源算上人(げんさんしやうにん)

 上人(しやうにん)ハ因州(いんしう)の人(ひと)にて懐胎(ミごもり)のうち母(はゝ)を苦(くる)しめたれバ不詳(ふしやう)の子(こ)なりとて山中(さんちう)に捨(すて)さしむしかれども鳥獣(とりけもの)もこれを害(がい)せず三日(ミつか)乳を呑ざれども死(し)せず村人(むらびと)拾(ひろ)ひあげて養育(やしなひ)しに十五才(さい)の時(とき)叡山(えいざん)に登(のぼ)りて剃髪(ていはつ)せしが母(はゝ)の死(し)を聞(きい)て当山(たうざん)に来(きた)りその練行(れんぎやう)言語(こんご)に尽(つくし)がたく聊(いさゝか)名利(ミやうり)を好(この)まず唯(たゞ)観音(くわんおん)を信(しん)ずるのみなれバ此山(このやま)の主(ぬし)阿知坂神(あちさかのかミ)雇夫(ようふ)と現(げん)し又(また)数万(すまん)の猪鹿(しゝしか)来(きた)つて岩窟(がんくつ)を砕(くだ)き凸凹(なかだかなかくぼ)を平地(ひらち)とせし奇異(きい)のありさま天子(てんし)へ聞(きこ)へけれバ遂(つい)に仏閣(ぶつかく)を御建立(ごこんりう)ありけり上人(しやうにん)山(やま)にすむこと七十四年(ねん)承徳(しやうとく)三年三月定印(ちやうゐん)を結(むす)びて百十七才(さい)にて寂(じやく)すれども更(さら)に其(その)容躰(やうだい)変(へん)ぜされバ諸人(しよにん)いよ/\尊(たうと)び拝(はい)せり体(からだ)の腐(ふ)せざる者(もの)ハ越後の弘智法印(こうちほうゐん)のごとくにしてめでたき聖(ひじり)なること疑(うたが)ふべからず

廣重美術館蔵

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