渋川佐太夫(しぶかハさだいふ)
 佐太夫(さだいふ)は河内(かハち)の者(もの)ニて独(ひとり)の子(こ)大病(たいびやう)にうちふし医薬百計(ゐやくなにくれ)に手(て)を尽(つく)せども験(しる)しなく父母(ふぼ)かなしミにたへかねて大悲(だいひ)の施無畏(せむい)を一心(いつしん)に信(しん)じけれバ不図(ふと)十四五の童(わらべ)来(きた)りて子(こ)の病(やま)ひを尋(たづ)ねけるゆゑ加持(かぢ)を頼(たの)ミけれバ童(わらべ)とりあへず千手陀羅尼(せんじゆだらに)を読(よミ)おしえけると俄(にハか)に苦痛(くつう)を免(まぬか)れしゆゑ父(ちゝ)歓(よろこ)びて童(わらべ)に財宝(ざいほう)を布施(ふせ)しけれども更(さら)に受(うけ)ず唯(たゞ)病人(びやうにん)の箸紙(はしがミ)を取(とつ)て予(われ)ハ紀州(きしう)粉河寺(こがハでら)の者(もの)といひて去(さ)れり其後(そのゝち)本腹(ほんぶく)しけれバ父(ちゝ)子(こ)を連(つれ)て其所(そのところ)をさま゛/\尋(たづ)ねけれども知(し)れず人(ひと)もなき草庵(さうあん)に休(やす)らひて終夜(よもすがら)案(あん)じけるところ不思議(ふしぎ)と仏間(ぶつま)に光明(くわうミやう)輝(かゞや)きしに駭(おどろ)き近寄(ちかよつ)て見(ミ)れバ千手(せんじゆ)の御手(おんて)に子(こ)の箸筒(はしづゝ)かゝり居(ゐ)たれバ扠(さて)は以前(いぜん)の童(わらべ)は此(この)御仏(ミほとけ)に在(ましま)せしかと深(ふか)く尊(たうと)びて参詣(さんけい)すること四方(よも)にひろまり終(つひ)に伊都郡(いとのこほり)の女大信者(おんなだいしんしや)となりて住宅(すまゐ)を御寺(ミてら)とせしより験(れいげん)弥(いよ/\)あらたなり

廣重美術館蔵

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