当該画面は、観音の霊験が現れる場面を絵画として表現したものではない。
 画面を構成するのは、白馬に跨って右手で矢をつがえる男性と、左手で矢を担いで彼に従う男性の二者である。彼らと馬の視線は、何れも画面左上端へと注がれている。霊験譚の記述によれば、この向きは、遙か向こうの梢にある鷲の巣がある方角であると考えられる。
 当該霊験譚には、畠山重忠とその家臣である本多次郎親常が登場する。この霊験譚は、重忠が霊夢のお告げにより狩へ赴き、平将門の乱の際に行方不明となった聖観音の像を鷲の巣の中から発見して、当寺を建立したという話である。画面登場人物をそれぞれ当てはめると、馬上の男性が重忠、後に従う男性が霊験譚の表題に掲げられる本多次郎親常に該当すると推測することができる。
 鞍上で矢をつがえる男性、すなわち重忠は、陣羽織をまとう姿で描かれている。しかし、霊験譚の記述によれば、彼は家臣である親常に命じて矢を射かけさせたとある。このことからも当該画面は、霊験譚の内容に必ずしも忠実に沿ったものではないと考えられる。
廣重美術館蔵

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