当該画面は、画面登場人物が見る夢の中の情景を絵画化したものである。
 画面を構成するのは二者。鏡を掲げて立つ女性と、その女性を見上げる形で坐す男性である。
 画面右下端、折烏帽子(おりえぼし)を被って扇子を拡げている男性は、尾張国熱田の社人(しゃじん)である。楽太鼓(がくだいこ)と御幣(ごへい)が傍らに描かれていることから、当該画面の舞台は彼が参籠していた拝殿であると推測することができる。彼が、この夢を見る本人である。
 また画面左上端の女性は、霊験譚の記述によれば、一面の唐鏡(からのかがみ)を捧げ持って社人の夢の中に現れた異国の美人である。女性が手にしている円鏡が、霊験譚の表題にも掲げられる唐鏡である。彼女の髪型や衣裳は、西国第三十番に描かれる弁財天のそれと共通する点が多く見られる。また彼女が掛ける領巾(ひれ)の裾は、宙に翻るように描かれている。
 社人と異国の美人、この両者が、画面右下端から左上端を結ぶ対角線上に配され、彼らの視線もこの線上に描かれている。
 当該画面は、夢の中で社人が鏡を託されたという霊験譚の一場面を絵画化したものである。
廣重美術館蔵

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