画面を構成するのは、龍の背の上に立つ長髪の女性と、彼女の背後から団扇を差し掛けている女性の二者である。
 画面中央の女性は、霊験譚の表題に掲げられる龍女である。彼女は、千早(ちはや)に緋袴(ひばかま)という巫女姿で描かれている。西国第二番にも龍女が現れるが、歌舞伎の姫君の姿で表現されている点で、当該場面に登場する龍女とは異なる。当該画面の龍女はむしろ、その髪飾りや髪型が坂東第十二番に現れる龍女のものに似る。
 霊験譚の記述によれば、この龍女は夜ごと「竜燈」を献じたとある。彼女が両手で捧げ持っているものが、竜燈に相当すると考えられるが、その形状から小型の舎利塔(しゃりとう)である金銅宝塔(こんどうほうとう)を意図して描かれたものと推測することができる。
 龍女の背後に立つ女性は、霊験譚の記述に直接の記載はないが、彼女の侍女と思われる。背後から差しかけている団扇は、日月の唐団扇(からうちわ)であり、これと同様のものが西国第二十三番にも見られる。団扇が扁額部よりも手前に描かれている点も共通する。また彼女の装束は、その髪型と衣の色こそ違え、西国第二十三番に登場する侍女に類似している。画面中央下部分を大きく占める龍に関しても、霊験譚の記述による示唆はない。当該画面に現れる龍も、秩父第二十八番の画面中に影像として描かれる龍と同じく、三本爪で表現されている。
 また、当該画面は『廻拝記』坂東第二十七番、侍童とおぼしき男児が竜神に団扇を差し掛ける画面と、構図的に類似している。
廣重美術館蔵

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