当該画面は、霊験譚の記述に基づいて忠実に絵画化を試みるよりも、その内容を象徴的に描き出したものであると考えられる。
 画面を構成するのは二者。中央に立つ狩装束(かりしょうぞく)の武家の男性と、膝を突いている男性である。
 霊験譚の記述によれば、画面右端の男性は頓死した村人である。彼は、右手を上方に掲げ左手を前に突き出し、口を開けて驚きの様相を呈している。また画面中央、右手に綾藺笠(あやいがさ)を持ち、左手で弓を担いでいる男性は、霊験譚の表題に掲げられる領主の郡司である。
 彼は、太刀を佩き打刀(うちがたな)を差し、射籠手(いごて)を着けて背中に靫(うつぼ)を負い、腰には行縢(むかばき)を着けるという、狩に赴く装束に身を包んでいる。これは、霊験譚中に挿入されている彼の生前の善業(ぜんごう)を暗示している。すなわち、彼が鹿を狩る最中に当寺に至り、矢尻によって灯明を献じたという功徳を絵画化するために、狩装束姿に描かれたものであると推測することができる。
 また彼の眼前、画面左端に配された大鏡に関しては、霊験譚には記述されていない。蓮台(れんだい)を模した四つ足の鏡台に据えられた鏡面に映る影像は、生前の悪業(あくごう)によって無間地獄へ堕とされるべきところ、灯明の功徳によって蛇身に生まれるように閻魔から告げられた、彼の未来の姿である。
廣重美術館蔵

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