当該画面は、霊験譚の導入部分を絵画化したものである。
 画面の登場人物は三者。画面左方、大小の刀を差す男性と、その背に背負われて泣く幼児、そして右手に笠を掛けた脇指(わきざし)を持ち、左手で杖を突く武家の女性である。
 霊験譚の記述によれば、武家の男性は表題に掲げられる、壬生良門の忠臣である林太郎定元であり、女性は彼の妻である。また定元が背負う前髪唐子(まえがみからこ)の幼児は、この時点では未だ三歳であるが、長じて良門に取り立てられることになる、林源太郎良元である。
 主である良門に諫言を呈して追放された定元が、知人を頼って一家と共に秩父へと向かう場面が絵画化されている。この後に妻が死に、その三日後に定元も他界することが霊験譚に記されている。そして、霊験譚の終盤で観音の霊験を受けることになる良元が、父の背に負われた幼児の姿で表現されていることからも、当該画面が導入部分の絵画化であることが推測することできる。
 表題人物の子供が観音の霊験を受ける話は、西国第二十五番にも見える。しかし、この場合は赤松氏範が自害した後、すなわち霊験譚の終盤部分が絵画化されているという相違がある。
廣重美術館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved