画面を構成するのは、頭巾を被った僧形の男性と、単色の影のように描かれる人物の二者である。
 竹製の床几(しょうぎ)に腰を下ろし、右手に団扇、左手に数珠を持ち、素足の右足を床几の上に上げる男性が、霊験譚の表題に掲げられる西光寺住僧の圓比丘である。また煙の中から現れる人型の影は、霊験譚の記述によれば、昔は優婆夷(うばい)であったが悪心から阿鼻地獄(あびじごく)に堕ちた老婆である。彼女は主線によっては描かれず、刷りの色のみによって表現されている。この両者が、画面右上端から左下端を結ぶ対角線上に配され、視線もこの線上に描かれる。
 立ち昇った一条の煙は五つに分かれるが、その何れもが扁額部までは達せず、画面の中に留まっている。この煙は、霊験譚中には草叢から立ち昇ったものとの記述があるが、廣重美術館本・国立国会図書館本ともに、画面右端の古井戸の中から描かれていることが確認できる。
 当該画面は、月見をする圓比丘に向かって、老婆の幽霊が自らの子孫に菩提を弔う旨を伝えるように乞う場面を絵画化するものである。
廣重美術館蔵

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