画面を構成するのは、他の画面登場人物よりも一回り大きく描かれた、右手に太刀を持つ男性、手を付き顔を振り仰がせる男性、そして脇に坐す若い男性の三者である。
 画面右上、鞘に武田の四つ菱紋の入った太刀を差し出す、小忌衣(おみごろも)を着た高位の男性は、武田信玄である。また彼の面前で手を付いているのが、霊験譚の表題に掲げられる、山形三郎兵衛の配下である石原宮内である。
 この両者が、画面右上端から左下端を結ぶ対角線上に配されている。彼らの視線も、この線上に描かれる。
 そして、もう一名の登場人物である若い男性だが、霊験譚の記述に彼に直接言及する箇所は見受けられない。恐らく彼は、信玄付きの小姓であると考えられる。その視線は、宮内へと注がれている。
 画面中央を占めるのは、信玄が手にする太刀である。彼の表情の厳めしさからも、当該画面は、時田合戦の際に勝手に軍の備えを行ったことに信玄が立腹して、宮内に死罪を申し付けている場面を絵画化したものだと考えられる。
廣重美術館蔵

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