当該画面は、時間的空間的な異なりがある二つの画面を、同時に描く手法をとるものである。
 この画面を構成するのは、上方に描かれた天女を思わせる女性と、下方で尻餅を付く女性の二者である。霊験譚の記述から、天女は仏意に叶うものとして慈眼寺の地に曼陀羅華(まんだらげ)を降らせる者、また一方の女性は、大宮町から江戸へ嫁ぎ、霊験によって大火災の難を免れた高野氏の娘であると推測することができる。
 天女は、右手に開敷蓮華(かいふれんげ)を持ち、左手で散華(さんげ)している。彼女が戴く冠は、西国第二十三番の百済国王后や西国第三十番の弁財天が被るそれと類似するように見受けられるが、宝珠を付けるという点では、この両者とは異なっている。また彼女の髪型は、秩父第一番に現れる霊鳥に相似する。
 天女が手に持つ蓮華と領巾(ひれ)は、扁額部の縁に掛かっており、彼女が扁額部よりも手前に描かれていることが判る。
 画面右上端と左下端を結ぶ対角線上に両者が配され、彼女たちの視線も、この線上に描かれる。また画面左上端と右下端を結ぶ対角線上に彩色された風が描かれるが、特にその赤色は、霊験譚中に記載される江戸の大火災を示唆していると思われる。
 風の向きは、袖で顔を隠す女性の手拭いが吹き上げられていることから、画面右下から左上に吹いているものと考えられる。この風を境に、上部が慈眼寺の地を、また下部が大火災に見舞われた江戸の地を表現していると推測することもできる。
廣重美術館蔵

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