画面を構成するのは、刀を持った右手を振りかざす男性と、風呂敷包みを背負った男性の二者である。
 右足を上げ、左手を前に突き出すという驚きの様相を呈しているのは、光明に眼を射られようとしている山賊である。また膝立ちになって笠を取り落とす旅装の男性は、霊験譚の表題に掲げられる甲斐の商人である。彼のかざされた手やほつれた髪の毛は、彼の驚きや怖れおののく様を表現している。この両者が、画面右上端から左下端を結ぶ対角線上に配されている。またこの線上に、商人の胸許からの光線が描かれている。
 画面中心を占める五条の光線の源は、霊験譚の記述によれば観音の肌守(はだまもり)にある。守り袋から光明が放射される図案は、西国第十九番、西国第三十一番にも見られる意匠である。
 山賊の視線は、光明から逸らされているのか、もしくは見得(みえ)を意図しているのか、上方へと注がれている。霊験譚中には、光線が山賊達の眼を開かないようにしたとの記載があるが、画面中では山賊の表現を隠さないように光線の間隔を調整している。同様の配慮は、坂東第四番にも見られる。
 当該画面では、観音力によって放たれた光明が、商人の危難を救った点に焦点を当てて描かれるものである。
廣重美術館蔵

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