当該画面は、空間的な異なりがある二つの画面を、同時に描く手法をとるものである。
 画面を構成するのは、脇息(きょうそく)に左の肘を突き、眼を伏せている男性と、その男性の右手を引く裸形の者の二者である。
 膝に着物を掛け、夜着とおぼしき白色の衣を着た前者は、霊験譚の表題に掲げられる門海である。また、吽形(うんぎょう)をとる後者は、霊験譚の記述によれば、門海の夢の中に現れた金剛神である。
 画面右下方には、眉間に皺を寄せて病に苦しむ門海が、観音に病気平癒を祈願した晩に、夢を見ている場面が描かれている。上半身を捻った動勢のままに彼の手を引き、起き上がることを促している金剛神は、門海の夢の中に登場するものである。この場面には、夢を見る門海と夢に現れる金剛神が、同一画面上に表現されている。
 また霊験譚という性質上、病気平癒に関わる話が複数存在するが、当該霊験譚以外にも西国第十五番、西国第二十一番、西国第二十三番、秩父第九番、秩父第二十七番、坂東第二十二番が、観音の霊験によって病が癒える話である。
 中でも西国第十五番とは、脇息に肘を突いて病に悩む主人公と、夢の中の登場人物である観音が同一画面上に描かれるという点で、構図的に特に類似している。
廣重美術館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved